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   image 宇宙からの反粒子探し    2002.08.22
 
〜 BESS気球観測続く 〜
 
宇宙から地球の上空へ降り注ぐエネルギーの高い粒子を気球で観測し、宇宙で生まれた反物質を探すBESS実験については以前にもお話しました。1993年以来、この実験はほとんど毎年、夏に行われてきました。今日は、この夏8月7日から8日までカナダで行われたBESS気球観測実験についてお話しましょう。


カナダで実験が行われた理由

気球が打ち上げられたのはカナダのマニトバ州にあるリーンレイクです。ここはカナダとアメリカ合衆国の国境から1000キロほど北にある森と湖の地域です。打ち上げ後、地表から37キロ上空を22時間ほど西へ約600キロ漂流した気球の回収地点はアルバータ州のフォート・マクマリー近くでした。アルバータ州のこの付近は大森林地帯です。打ち上げも回収も気球実験を安全に行える場所が選ばれました。BESS実験がこの場所で行われた理由はそれだけではありません。
 
初めにお話したように、この気球観測は宇宙からやってくる粒子を観測します。この粒子たちは電気を帯びていますが、そのため、地球が持っている地磁気が作り出す磁場の力を受けることになります。低緯度に比べて地球の磁極に近いところでは、その磁場の形のために、電気を帯びた粒子が地上近くまで入り込みやすくなっています。北極や南極の周りにオーロラが見られるのもそのためです。BESS実験が行われたカナダ北部は北の磁極に近く宇宙からの電気を帯びた粒子が侵入しやすい場所として選ばれたのです。ですから、同じ実験を南極で行うことも出来ます。今後もBESS実験は続けられますが、2004年には南極で2週間の実験が予定されています。


気球観測の長所

気球実験は衛星実験に比べて費用がかかりません。また衛星に比べて大きな測定器を使うことも出来ます。測定器を毎回回収して改良できる点もこの実験の長所です。大型気球による観測技術には、KEKの高エネルギー加速器実験で開発された超伝導技術や粒子検出技術が応用され、実験毎に改良が積み上げられてきています。
 
それではどのくらいの大きな気球が良いのでしょうか? 宇宙からの粒子が集めやすいといっても、宇宙からの粒子は地球大気の中へ侵入するにつれ空気と衝突して反応を起こしてしまいます。このため約37キロという高い高度を長時間保って観測できる気球が使われています。このあたりでは、空気は地上の200分の1という薄さで、空気と衝突反応する前の宇宙から来た状態に近い粒子の観測が可能になります。今回の実験では容積110万立方メートル、直径130mの巨大な気球に重さ2.3 トンの測定器が積まれました。


宇宙からの反陽子

前にお話したように現在の宇宙誕生の理論では、宇宙が創生された高いエネルギー状態から物質を作る粒子が生まれてきたとき、粒子と反粒子は同じ量だけ宇宙に存在しました。しかし、現在、私たちの周りにある観測された自然界の物質はほとんど粒子でできたものばかりです。反粒子は粒子との性質の違いが原因で消えていったのでしょうか? 宇宙のどこかに反粒子が集まった世界があるのでしょうか? 宇宙のどこかに反物質の世界がある可能性を探すため、反ヘリウム原子核を探すこともこの実験のテーマの一つです。でも、これまで1993年から2000年までの7回のBESS実験で観測された700万個のヘリウム原子核の中には反ヘリウム原子核は一つも見つかってはいません。
 
BESS実験の研究者たちが宇宙の反物質について探るために期待を寄せている反粒子は、宇宙の歴史の中で取り残された陽子の反粒子である反陽子です。反ヘリウム原子核と違い、宇宙からの反陽子は、BESS実験で、毎年確実に観測され、その観測事例はこれまでに2000以上に至っています。
 
この観測された反陽子の多くは、宇宙を走る高エネルギーの粒子が銀河内の物質粒子と衝突反応して生まれた反陽子が多いのですが、その中には宇宙を起源とする反陽子も含まれているかもしれません。研究者たちはそんな反陽子を見つけ出そうとしているのです。
 
そんな反陽子の一つは、宇宙初期の高温・高密度状態の"むら"を引き金として生まれたミニブラックホールを起源としているかもしれません。ホーキング博士によるこの考察では、このようなミニブラックホールが現在の宇宙にも、銀河をとりまくように残り、その表面の不安定な真空の揺らぎに伴って放出された反陽子が地球に降り注いでいる可能性があると指摘されています。この宇宙の初期現象を源とする反陽子は、衝突で生まれる高エネルギーの反陽子に比べてより低いエネルギーの反陽子としてみつかるかもしれないと期待されています。宇宙の初期の歴史的現象の痕跡としての反陽子探しには、まだまだ宇宙からの反陽子観測のデータが必要です。それだけに南極で行われる今後のBESS実験へ研究者の期待は大きく膨らんでいます。
 
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  [図1]

上空37kmで観測された宇宙線イベントの例。入射宇宙線がそのエネルギー(運動量)と電荷に応じて、観測装置内の磁場で偏向され、粒子/反粒子が明白に識別される。

拡大図(41KB)

 
 
この実験は、KEK、東京大学、神戸大学、宇宙科学研、NASA、メリーランド大学が共同で推進している日米間の宇宙科学国際協力実験です。

※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→BESSグループのwebページ
http://bess.kek.jp/index-j.htm

→関連記事:
        失われた世界を探る(1)
        失われた世界を探る(2)
        気球で探る反物質宇宙〜 BESS実験 〜

 
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[写真1]
超伝導技術により永久電流磁場が保持された粒子観測装置をランチャー(打ち上げ機)につり下げる。
拡大写真(37KB)
 
 
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[写真2]
気球打ち上げ直前。左側に観測装置、パラシュートを介して右側に気球。その間〜200m。
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[写真3]
気球打ち上げの瞬間。トップは約300mに達する。中間にパラシュートが見える。
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[写真4]
観測終了後、気球を切り離し、パラシュートによって安全に、森林地帯に降下する。 
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[写真5]
森(原始林)での観測機器、パラシュートの現地のエキスパートとの回収作業の合間に、つかの間の休憩。
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[写真6]
無事回収され、森から運びだされる観測装置。
拡大写真(58KB)
 
 
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