menubar Top Page KEKとは KEKツアー よくある質問 News@KEK キッズサイエンティスト 関連サイト
トップ >> News@KEK >> ニュース >> 2002年5〜6月 >> この記事
 
   image 気球で探る反物質宇宙
〜 BESS実験 〜
 

宇宙創生と物質世界

私たちの周りには様々な物質があります。そうした物質を作り上げているのは様々な種類の原子たちです。皆さんよくご存知の水素や炭素、酸素など、原子は色々な種類に分かれますが、どの原子も原子核と電子からできており、種類の違いは原子核を構成している中性子と陽子、それに対応した電子の数の違いで生まれています。まとめてみますとこれらの物質は全て陽子・中性子・電子から成り立っているのです。このように物質世界を素粒子の組み合わせで眺めてみますと一つの疑問が生まれます。

前にBELLE実験のところでお話したように、加速器実験ではこれらの素粒子に反陽子・反中性子・陽電子という反粒子が存在することが確かめられてきました。もしこれらが組み合わさると反粒子から構成された「反物質」を考えることができるはずです。ところが私たちの周りを見回す限りは反物質の世界はこれまで発見されていません。

私たちの宇宙では、現在、粒子の数が反粒子の数に比べて圧倒的に多くみえるのです。しかし、一方で、宇宙はビッグバンと呼ばれる大爆発から始まったと考えられており、宇宙のはじめでは、加速器実験で素粒子が生まれる高エネルギーの世界に似ていたと考えられますから、そこに現れた粒子と反粒子の数は同数だったはずです。その後どのようなメカニズムが働き、この宇宙で物質が反物質に対して優勢になっていったのでしょうか。


粒子と反粒子の性質の違い

宇宙創生では同数だった粒子・反粒子数は、宇宙の進化に伴って「CP対称性の破れ」という素粒子現象によってアンバランスを生じたと考えられています。粒子と反粒子で素粒子反応がわずかながら違いを生ずる可能性があることは、前に紹介したように、多量のB中間子の崩壊現象を詳しく調べるBELLE実験などで確かめられてきました。宇宙初期での素粒子現象でもこのような粒子と反粒子の性質の違いが存在すれば、後の宇宙に粒子数と反粒子数にアンバランスを生じさせることができます。

しかし宇宙全体が私たちの周りと同じように物質(粒子)優勢であるのか、それとも私たちの周りは物質優勢であるけれども宇宙の別の領域では反物質優勢である可能性があるのか、それは宇宙の進化とその過程での素粒子現象のモデルによって違ってきます。宇宙における物質・反物質のアンバランス(研究者は非対称性と呼んでいます)の詳細は今なお素粒子物理・宇宙物理での大きなテーマなのです。


宇宙線から反物質を探せ

もし宇宙の中が物質優勢の領域と反物質優勢の領域に分かれているとしたら、私たちは反物質領域の存在を知ることができるでしょうか。KEKでは宇宙科学研究所・東京大学・神戸大学・NASA・メリーランド大学と日米共同で遠方の反物質領域から宇宙空間を旅して地球にごく僅か降り注いでいるかもしれない宇宙線中の反物質を探す実験を1993年から続けています。

宇宙空間で起きている普通の素粒子反応では、反陽子や反中性子、陽電子を組み合わせた反物質を作ることはできません。もしこのような反物質(例えば反ヘリウム原子核)をひとつでも捉まえることができれば、宇宙には反物質領域が存在することを突き止めたことになります。この実験は素粒子実験で開発された超伝導ソレノイド電磁石と粒子検出器をコンパクトにまとめた測定器を、大きなヘリウム気球で高度37km、飛行機高度の3倍の高さに打ち上げて地上では空気に邪魔されて見ることのできない宇宙から来る反物質を捕まえようとする実験で、BESS実験と呼ばれています。

加速器実験で見られる粒子・反粒子の関係が宇宙ではどうなっているのか?加速器実験で発見された粒子と反粒子の性質の違いが、宇宙の歴史の中でどのような役割を果たしたのか?極微の素粒子世界の研究が無限に広がる宇宙の起源にせまるBESS実験は私たちの住む現在の宇宙を探るロマンあふれる実験です。今回はBESS実験の目的について紹介しましたが、この実験の仕組みや気球については次の機会にお話しましょう。

※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→BESSグループのwebページ
http://bess.kek.jp/index-j.htm

→関連記事:
     失われた世界を探る(1)
     失われた世界を探る(2)
     宇宙からの反粒子探し〜 BESS気球観測続く 〜

 


 
 

 

反物質銀河からの反粒子の飛来?


 
気球で宇宙からくる反物質を捕まえるBESS実験


 
 
BESSの打ち上げの様子
[拡大写真(16KB)]
※ この記事に関するご意見・ご感想などをお寄せください。
 
image
proffice@kek.jp
image