敬老の日の9月15日月曜日、KEKの一般公開が行われました。KEKでは加速器の点検や改良を行う夏休みに合わせて毎年9月に研究施設を公開しています。今年の一般公開では、昨年ノーベル物理学賞を受賞された小柴先生の講演が催され、また、8月に最新成果を発表したBファクトリー実験の臨時講演があったことなどで、昨年の倍近い3900人もの方がKEKを訪れて大変なにぎわいでした。科学おもちゃのコーナーや、虹のタペストリーやラジオや霧箱を製作するコーナーにも朝早くからたくさんの子供たちが訪れて大人気でした。今年の一般公開の模様をいくつかご紹介しましょう。
大盛況だった小柴先生の講演
カミオカンデによるニュートリノの検出で2002年のノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊東京大学名誉教授が「宇宙・人間・素粒子」と題して講演を行い、800人を超える方々が聴講されました。小柴先生は「科学的認識の能力には、学校での勉強のような『受動的認識』と、自分が何をやるかを決めて進んでいく『能動的認識』がある」と語り、「これからの社会では研究だけでなくいろいろな分野で『能動的な認識』の能力が必要とされるが、『能動的な認識』をどうやったら高められるかを書いてある本はないし、組織的にやっている所は知りません」と述べられました。「だけど私の経験からいえることは、『この人まだちょっと若すぎるかな』と思う場合でも、なにか責任のある地位につけちゃって、自分の責任で自分の判断で物事をやっていく立場に置いちゃう。こういうことでその若い人はぐんぐん成長します。これは見ていて気持ちが良くなるくらい成長します。」と述べられました。その後、陽子崩壊を探す実験から超新星爆発のニュートリノをとらえた瞬間、太陽ニュートリノのデータ、ニュートリノで見る宇宙初期の天文学の重要性、など、縦横無尽の話題に、聴衆のみなさんも熱心に聞き入っていました。
講演の本会場は、KEKでも一番広いホールでしたが、講演が始まる何時間も前からたくさんの人が詰めかけ、通路も身動きできないほどの状態でした。2か所用意したサブ会場にもテレビカメラで映像と音声を流しましたが、それでも入りきれなかった方もいて、この講演を楽しみにしてご来場いただいたのに聞けなかった方々には大変なご迷惑をおかけしました。申し訳ありません。
Bファクトリーの最新成果の臨時講演
KEKのBファクトリー実験で、未知の素粒子の存在を示唆する実験結果が得られて世界的にも注目を浴びていることはこれまでにもお伝えしました。この一般公開でも「未知の素粒子か?_Bファクトリーの最新の結果から_」と題して、Belleグループの羽澄昌史素核研助教授による臨時の特別講演が開かれ、会場の座席数を大幅に上回る200名以上の方が訪れました。
羽澄助教授は素粒子の世界や量子論についての興味深いスライドを見せながら「私も本当のところはちゃんと理解していない。アインシュタインも(量子論を)最後まで認めなかった」と前置きして、今回の成果を理解するために重要な概念であるトンネル効果やペンギンダイヤグラムなどの専門用語の意味について、ていねいに説明していました。講演の終了後も、今後の研究の展開についての活発な質問が出ていました。
「おもしろ物理教室」虹のタペストリー
「おもしろ物理教室」と「製作コーナー:ラジオを作ってみよう」は、毎年人気のコーナーで、参加を希望される方が大変多いのですが、用意できる材料などに限りがあり、やむを得ず、人数制限を設けています。
空にかかる虹は自然が作る芸術作品のひとつですが、実は太陽の光と雨粒によって引き起こされている現象です。「虹のタペストリー」と題した今年のおもしろ物理教室では、細かいガラスの粒で雨粒をまねた壁飾りを作りました。室内の電球やろうそくの光でも虹を見ることができましたが、圧巻は、できあがった壁飾りを持って、全員で外に出た時でした。太陽の光で見る虹はそれは美しいものだったからです。3回目の回では、外に出た時にあいにく陽がかげっていて、しばらく「太陽待ち」をしていましたが、雲が動いてタペストリーに虹が現れたときには、大きな歓声があがりました。
この「おもしろ物理教室」は、先着順で参加者を募っています。10時からの回はあっという間に満席になったため、担当のスタッフが急遽材料を調達して、2回目と3回目に参加できる人数を増やしたのですが、それでも参加できなかった人がたくさん出てしまいました。
フォトンラジオの製作に挑戦
ラジオ製作コーナーも、毎年、人気が集中するコーナーのひとつです。時間帯によって3回に分けて抽選をするのですが、12時の回では競争率約10倍という狭き門でした。あまりの人気に、せめてラジオ製作キットをと、抽選ではずれた人の中から2次抽選でプレゼントを配りました。
製作するラジオは毎年違っていて、今年のラジオは、フォトン電池を使ったフォトンラジオでした。親子で作業机を囲みラジオを製作する顔つきは皆さん真剣そのものでした。
科学おもちゃで遊ぶ
科学おもちゃのコーナーも、時間帯によっては身動きができないほどの参加者が集まり、大盛況でした。「輪ゴム冷凍機」「ビー玉トランスポート」「超伝導コースター」「回転イス」など、普段は体験できないような不思議なふるまいを見たり聞いたり体験できるこのコーナーも大人気で、いつまでも遊んでいたいという子供たちがたくさんいました。
公開施設
今年は21の施設を公開しました。一般公開はもともと、普段なかなか見学することのできない施設をみなさんに見ていただくのが目的です。施設内を巡る循環バスに乗って、広い敷地内のあちこちにある施設を、たくさんの方々が訪れ、本物の加速器や実験装置に見入ったり、説明を熱心に聞いたり、展示物で遊んだり、楽しんでいただけたのではないかと思います。
最後に、おいで頂いた方々にKEK一同感謝申し上げます。来年の一般公開でもまたお待ちしています。
2003年一般公開写真集
(画像が多いので、ご覧いただくのに少し時間がかかります。)
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