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   image 新しい物理への挑戦    2003.8.28
 
〜 Belle実験-予測を超えた現象を示唆 〜
 
Belle実験グループは8月12日、米国シカゴ郊外のフェルミ国立加速器研究所で開かれていた国際会議で、これまで確かめられていた理論では説明が困難な、新しい現象を捉えた、と、発表しました。このニュースは新聞などでも大きく取り上げられましたのでご記憶の方もいらっしゃると思います。この発表は世界中の研究者にも大きな驚きをもたらしました。

小林・益川理論の正しさを証明したBファクトリー

KEKのBファクトリー実験施設は物質と反物質にはたらく物理法則の違いを研究するために建設された施設です(図1)。私たちのまわりには物質がたくさんありますが、反物質はありません。自然法則は物質と同じように反物質の存在も許していますが、今の宇宙に反物質が存在するという観測事実はありません。なぜこのようなことが起こったのでしょうか。物質と反物質に物理法則の違いをもたらすアンバランスのことは「CP対称性の破れ」と呼ばれています。

素粒子の世界にこのようなアンバランスがあることは、1964年にK中間子の実験で発見されました。これを説明したのが30年前に提唱された「小林・益川理論」です。この理論が正しいという決定的な証拠をつかんだのはKEKのBelle実験と米国スタンフォード線形加速器センター(SLAC)のBaBar実験でした。2001年にそれぞれの実験グループが「B中間子におけるCP対称性の破れ」を発見し、このバランスの崩れかたが理論の予言と一致することを確かめたのです。

この測定はその後精度を増し、小林・益川理論がCP対称性の破れを説明する正しい理論であることはゆるぎないものになっています。しかし、同時に進行した理論的研究によって、宇宙の物質・反物質のアンバランスを説明するためにはこの理論だけでは不十分であることも次第に明らかになってきました。つまり、小林・益川理論は正しいが、宇宙のアンバランスを理解するためには、未知のCP対称性の破れがどこかにあるに違いない、ということになります。

φ(ファイ)とKS(Kショート)への崩壊に異常

このような背景で実験を続けてきたBelle実験で、非常に興味深い現象が捕まえられました。B中間子は実にさまざまな壊れ方をする粒子で、そのパターンは知られているだけでも100種類を越えます。このうちいくつかでCP対称性の破れが観測されると期待されており、その破れの大きさは小林・益川理論で計算することができます。 それぞれのパターンでの破れのメカニズムは異なっており、その違いを精密に測定することで、小林・益川理論の検証や、未知の現象をとらえることができるかもしれないと、従来から期待されていました。

昨年までの実験データでは量が不十分で、はっきりしたことが言えない状況でしたが、今年になって、データ量が昨年までの倍近くになり、B中間子がφ(ファイ)とKS(Kショート)と呼ばれる二つの軽い中間子に崩壊する場合に見られるCP対称性の破れの大きさが、小林・益川理論の予言と食い違っている可能性が高いことがわかりました。この崩壊では「量子トンネル効果」のために崩壊の途中でいったん自分よりはるかに重い粒子に化ける(図2)、という奇妙なことが起こることが知られており、新しい物理があればここに顔を出す可能性が高いと注目されていたものでした。

「ゴジラ」と「松井」

この実験結果を国際会議で発表したのは、Belle実験のメンバーでもあるハワイ大学のトム・ブラウダー氏です。CP対称性の破れは、sin2φ1(サインツーファイワン)などの量で表されますが、米国の研究者は同じ量をsin2β(サインツーベータ)と書きます。ブラウダー氏は「日米の野球ファンにしかわからないジョークで申し訳ないが」と前置きして、小林・益川行列に現れる三つの角度に日本ではφ1、φ2、φ3、米国ではα、β、γという二種類の表記法があることを説明し、「日本では『マツイ』という本名で呼ばれている男が米国ヤンキースでは『ゴジラ』というニックネームで呼ばれているようなものだ」といって、会場を沸かせました(図3,4)。Belle実験とBaBar実験の最新のデータを示して、これまでに観測された崩壊パターンで小林・益川理論が大変よく合っていることを示した後、少し間を置いて、「さて、これが皆さんお待ちかねのφとKSの測定結果だ」と、Belle実験のグラフ(図5)を示しました。標準理論が予測するCPの破れの振る舞いとちょうど逆に見える結果に、会場は一瞬、水を打ったように静まり返りました。一方、BaBar実験の結果はむしろ標準理論の予言に近い値でした。Belle実験の値は研究者に予測できないほどの大きな驚きを与えたのです。

サイコロの目がそろう確率

Belle実験の結果がどのような意味をもつのか、現段階ではよくわかりません。ひょっとしたら、超対称性理論と呼ばれる仮説が現実のものとなってその姿を見せているのかもしれません。また、宇宙の物質と反物質のアンバランスの理解に結びつくのでは、という期待も持てます。世界中の研究者がこの新しい結果を説明できる理論を考え出すことに夢中になっています。

と同時に、「結論を下すにはまだ早い」と、慎重な見方を崩さない研究者もいます。今回の実験結果はおよそ1億5千万個のB中間子の中からφとKSに壊れるとされる事象が68個見つかったのですが、今回の測定があるべき値から外れている場合だけをたまたま観測してしまった可能性もまだ否定できません。従来の理論で説明できる確率は0.1%以下、と、極めて低いのですが、断定的な結論を出せるほどではないのです(図6)。

サイコロを何度も振って、出た目の平均値を調べるという実験を考えてみましょう。理想的なサイコロでは、平均値は3.5に限りなく近付きます。ところが何回かサイコロを振っていると、たまたま1の目ばかりが何度か連続してでる、という場合もあります。0.1%の確率というと、サイコロの1の目が4回連続して出る確率とほぼ同じです。1の目が連続して出る原因がサイコロそのものにあるのか(新しい物理)、たまたまなのか(標準理論)を見極めるためには、もっとたくさんサイコロを振って、測定を続ける必要があります。

Belleグループの山内正則(やまうちまさのり)教授は「これからもさらに多くのデータを蓄積して、これらの謎に挑戦して行きたい」と語っています。

※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→Belle実験のwebページ
  http://belle.kek.jp/
→国際会議LeptonPhoton2003のwebページ
  http://conferences.fnal.gov/lp2003/

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[図1]
Bファクトリー加速器(KEKB)によって光速近くまで加速された電子とその反粒子である陽電子を衝突させて大量のB中間子を生成し、その崩壊の様子を精密測定する巨大なBelle測定器。
拡大図(58KB)
 
 
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[図2]
B中間子がφ中間子とKs中間子に崩壊する過程でB中間子を構成するボトムクォークが「量子トンネル効果」と呼ばれる現象により、一瞬だけ35倍も重いトップクォークと16倍重いW粒子に化ける過程を示したペンギンダイヤグラム。
拡大図(11KB)
 
 
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[図3]
国際会議Lepton Photon 2003が開かれたアメリカのフェルミ国立加速器研究所の建物
拡大図(25KB)
 
 
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[図4]
国際会議Leton Photon 2003でBelle実験とBaBar実験の結果を発表するトム・ブラウダー氏
拡大図(58KB)
 
 
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[図5]
B中間子がφ中間子とKs中間子に崩壊する事象68例をもとにCP対称性の破れを解析した結果。点線は理論による予測値で、青色の実線は解析結果から得られたもの。
拡大図(13KB)
 
 
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[図6](c)スタジオR
実験開始から約4年間で得られた1億5千万個のB中間子と反B中間子対のデータの中から、φ中間子とKS中間子に崩壊する事象を68例見つけ、CP対称性の破れを精密測定した結果、標準理論では説明が困難な新しい現象を捉えた。
拡大図(51KB)
 
 
 
 
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