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真夏の研究集会 2004.9.2 |
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〜 東海村に集まった原子核素粒子の研究者 〜 |
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研究者の夏 今年は猛暑が続きました。日頃は研究や実験に明け暮れている研究者は、仕事の能率がどうしても下がる夏の期間中は通常の仕事からちょっと離れて、今までの仕事をまとめたり、実験装置の保守作業をしたり、新しいアイデアを追求したり、まとまった時間をアイデアの検討に費やしたり、そして休暇を取ったりしてリフレッシュを図り、実りの秋に備えます。大学のスタッフにとって、講義の行われない時期は研究に集中できる貴重な時間です。 国内外で開催される研究集会(ワークショップと呼びます)や夏の学校、国際会議などに出かけて研究成果を発表し、他の機関の研究者たちと時間をかけて討論を行うのも、夏にしかできない研究者の大切な仕事です。今回は、今年の夏に開催されたそのようなワークショップを御紹介します。 J-PARCでの原子核素粒子物理に関する国際ワークショップ これまでもご紹介してきたように、茨城県の東海村で、KEKと日本原子力研究所が共同で大強度陽子加速器施設(J-PARC)の建設を進めています。J-PARCにより世界最強の陽子加速器が日本に実現し、そのビームを使った物質・生命科学、原子核・素粒子物理の研究等の幅広い分野の最先端研究が行われます。日本の原子核・素粒子実験の研究者はこれまで主にKEKの12GeV陽子加速器を用いて実験を行ってきましたが、J-PARCではよりエネルギーの高い50GeVの陽子加速器から引き出される、およそ100倍の強度のビームを用いて実験を行うことができます。これまでのKEKでの実験の多くが、外国から参加する研究者も交えた国際共同実験として行われてきました。J-PARCでは国際化がより一層進み、世界中から研究者が参加する一大研究拠点となることが期待されています。J-PARCでどのような実験を行うかについて多数のアイデアが出されている一方、今までにない強度の陽子ビームを使うための技術的困難も待ち構えています。 J-PARCでの原子核素粒子物理について、国内外から研究者が集まってオープンに議論を行い実験の提案を練り上げる機会を提供することを目的として、「J-PARCでの原子核素粒子物理に関する国際ワークショップ International Workshop on Nuclear and Particle Physics at J-PARC」を定期的に開催しています。第1回(2001年12月、KEK)、第2回(2002年9月、京都大学)に続く第3回目が今年の8月2日から4日の3日間行われました(図1)。このワークショップは、原子核(Nuclear)と素粒子(Particle)の頭文字NPと開催年の下2桁をとって“NP04”という略称で呼ばれています。 ワークショップは真剣勝負 今回のNP04ワークショップは、J-PARCの建設が行われている東海村で開催されました。会場は、JR常磐線の東海駅東口のすぐ近くにある「テクノ交流舘リコッティ」です(図2)。国内外から110名の研究者が参加しました。初日の“全体会議”では、参加者が一同に会し、J-PARCプロジェクトの進捗状況、加速器の性能、実験を行うためのホールやビームラインのデザインなどに関する最新報告と(図3)、各研究分野の最近のトピックスやJ-PARCでの物理の目標などに関する講演を聴き、議論を行いました(図4)。 2日目と3日目の午前中に開かれた“分科会”では、研究分野ごとに「作業部会」に分かれ、よりつっこんだ議論を行いました。作業部会での発表と討論は研究者にとっての“真剣勝負”です。各人がそれまでの検討をもとに実験のアイデアを提示し、その是非をめぐって専門家が丁丁発止とやりとりをします。アイデアを深めるためには、このようなやりとりが大きな刺激となります。NP04のような国際集会では(たとえ学生であっても)講演と議論は全て英語でこなさなくてはなりません。 3日目の午後は全体会議に戻り、J-PARCの運営の在り方に対する実験ユーザの側からの率直な意見を交換した後で、各作業部会からの“まとめ”の講演を行ってワークショップを締め括りました。 J-PARCでの原子核素粒子実験 原子核物理・素粒子物理は、物質の根源が何であるかを極微のスケールで探究する基礎科学です。物質の究極の構成要素が何であるか、どのような力がそれらを結びつけているか、などの研究を行っています。50GeV陽子加速器からの大強度のビームを用いて多彩な粒子を作り、非常に精密な観測を行なったり、未観測の現象を探したり、理論で予想もしなかったエキゾチックな状態を作ってその性質を調べたりすることができます。 研究者たちの間で現在議論されているのは、“ストレンジネス”という新しい性質をもった原子核の振る舞いを調べる実験、最近話題となっている“5つのクォークからなる粒子(ペンタクォーク粒子)”によりクォーク同士に働く新しい力を調べる実験、K中間子やミュー粒子を大量に生産してその極めて稀な崩壊パターンと新しい物理を探索する実験、そして大強度ニュートリノビームを岐阜県神岡町のスーパーカミオカンデ測定器に打ち込んでその振動現象を精密に測る実験などです。 NP04ワークショップでは、これらの研究分野ごとに「作業部会」をつくって議論を行いました。そして、実験を行うための“提案書(実験プロポーザル)”を本格的に作成する準備が始まりました。 建設現場を肌で体験 東海村で原子核素粒子物理に関する国際ワークショップを開催するのは初めてのことでした。実験ユーザにJ-PARC建設の進捗現状を肌で体験してもらおうと、J-PARCプロジェクトチームや日本原子力研究所の関係者の皆様にご協力をお願いして、NP04参加者による「J-PARCの建設現場ツアー」を行いました(図5)。ヘルメットを被って安全に注意しながら、J-PARCの加速器(ライナック、3GeV加速器、そして50GeV陽子加速器)と実験ホールの建設現場、それもまさにシャベルやブルトーザーが動き、建物の鉄筋にコンクリートを打設していく作業の様子を身近で見学することができました。 50GeV陽子加速器の巨大なリングの建設が行われている様子は、J-PARCがもはや“計画”ではなく現実のものであり、しかもいよいよ数年後に完成しようとしているということをNP04の参加者に強く印象づけました。J-PARCを用いて実験を行おうとしている研究者にとっては、夢がいっそう膨らむと同時に、身が引き締まる思いをする機会でもあったようです。 |
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