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last update:06/01/27  

   image 加熱中の材料の構造を実況中継    2006.1.26
 
        〜 高温放射光粉末回折システム 〜
 
 
  おいしい料理を作るには、素材を加熱しますね。それと同じようにセラミックスや金属の材料を作るときにも、素材を加熱します。おいしい料理を作るには味見をするのと同じように、材料をつくるときと同じ高い温度で原子の並びかたや電子の状態を調べると、優れた材料をつくりだすことができます。

加熱するのは、材料をつくるときだけではありません。燃料電池、排ガス触媒、粉塵除去装置、溶鉱炉など、環境問題やエネルギー問題を解決する様々な材料は、高い温度で使われることが多くあります。今日は、フォトンファクトリーで最近開発された、加熱した状態で材料の原子配列や電子状態を調べる、「高温放射光粉末回折システム」についてご紹介しましょう。

アツアツの材料を精密・高速に測定

世の中の物質の多くは原子が規則正しく配列した結晶でできています。実験の模式図(図1(a))に示すように、X線を結晶に照射して、結晶から出てくるX線の回折シグナルを解析すると、結晶の中で原子がどのように並んでいるか(結晶構造、図1(d))また、結晶の中で電子がどのように分布しているか(図1(e))を知ることができます。回折シグナルを測定するときに、通常のX線回折装置を使うとシグナルのピークの幅が広く(図1(b)、右側グラフの青)、隣のピークと重なりあってしまいます。このような実験データからは結晶構造と電子密度分布を精密に決めることはできません。しかし、指向性の高いX線である放射光を使うと、それぞれのピーク幅が狭くなり(図1(c)、右側グラフの赤)、結晶構造と電子密度分布を正確に決めることができるようになります。

次世代の燃料電池として注目を集めている固体酸化物形燃料電池は、摂氏1000度以上の高い温度で動作します。すぐれた性質をもつ燃料電池をつくるには、実際に動作するときと同じ高い温度で「味見」、つまり原子配列や電子密度分布を調べることがとても重要です。しかし、これまで、摂氏700度より高い温度で、精密にX線回折測定ができるシステムはほとんど存在しませんでした。東京工業大学・大学院総合理工学研究科の八島正知(やしま・まさとも)助教授と物質・材料研究機構・物質研究所の田中雅彦(たなか・まさひこ)主席エンジニアらの研究グループは、高い温度で材料の原子配列や電子密度分布を測ることのできる「高温・高分解能放射光X線回折システム」を開発しました(図2)。この装置は試料を耐熱性の容器に入れて測定できるような工夫をしたことで、試料を摂氏1600度という高い温度まで加熱しながら測定できるという画期的なものでした。しかし、この装置には、回折X線シグナルを測る検出器が1本しかなく、測定に時間がかかるという欠点がありました。そこで、八島助教授と田中主席エンジニアは、名古屋工業大学の井田隆(いだ・たかし)助教授らと共同で、検出器が6本ある、高分解能放射光X線回折装置に取り付けられる新型の加熱装置を新たに開発しました(図3)。この装置には回折X線シグナルを捉える検出器が6本あるので、これまで44時間もかかっていた測定時間が7時間と、約6倍という大幅なスピードアップができました。試料の加熱には、ケイ化モリブデンヒーターという、使いやすく耐久性にすぐれたヒーターを使っています。

高温のセラミックス材料の構造を捉えた

チタン酸カルシウム(CaTiO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、ランタンチタン酸塩(La2/3TiO3)、ランタンマンガナイト(LaMnO3)などは、ペロブスカイトと呼ばれる構造を持っています。ペロブスカイトには、巨大磁気抵抗や高温超伝導といったすぐれた材料になりうる性質を持っているものが多く知られており、現代の科学技術を支えるセラミックス材料です。もともとペロブスカイトとは、チタン酸カルシウムの鉱物名でした。図4は、このもっとも代表的なペロブスカイトであるチタン酸カルシウムの結晶構造(図4(A))と電子密度分布(図4(B))を、新型の加熱装置を使って摂氏1401度という高温で測定したものです。チタン原子(Ti)と酸素原子(O)の間に電子の重なりが見えますが、これが共有結合です。一方、Ca原子は孤立していて、イオン的に結合していることがわかります。セラミックス、いわば石ころの中に、共有結合とイオン結合が共存しているのはおもしろいですね。このような結合と結晶構造を変えることでセラミックスの特性を制御することができます。

もうひとつ別な材料の測定例をあげてみましょう。ジルコニア(ZrO2)、セリア(CeO2)などの蛍石(ほたるいし)型構造を持つ化合物は、ペロブスカイトと同様、多様で有用な性質を持っています。なかでもセリアは、自動車の排ガス触媒、燃料電池材料など、現代の環境問題とエネルギー問題を解決する材料として様々な用途に使われています。図5は、新型加熱装置で摂氏1430度という高温に加熱したセリアの結晶構造(図5(A))と電子密度分布(図5(B))です。これは、高温で、環境・エネルギー材料であるセリアの電子密度分布を摂氏1430度のような高温で決めた初めての例です。

この研究はKEK共同開発研究、科学研究費などの援助を受けて進められています。今後、この新型加熱装置を利用して、様々な物質や材料の高温での構造が明らかになっていくことでしょう。以前の6倍のスピードで測定できる新型装置の登場で、材料の特性向上・研究開発のスピードが一層加速されます。ご期待ください。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→放射光科学研究施設(フォトンファクトリー)のwebページ
  http://pfwww.kek.jp/indexj.html
→東京工業大学八島研究室のwebページ
  http://www.materia.titech.ac.jp/~yashima/Yashima-Jpn.html
→物質・材料研究機構のwebページ
  http://www.nims.go.jp/webram/
→名古屋工業大学井田隆助教授のwebページ
  http://www.crl.nitech.ac.jp/~ida/index-j.html
→1900Kまで試料を高温加熱できる高分解能放射光粉末回折
    システムを開発:PFトピックスのページ
  http://pfwww.kek.jp/topics/041026.html
→最近の研究成果・東京工業大学のwebページ
  http://www.titech.ac.jp/tokyo-tech-in-the-news/j/
    archives/2004/10/1098662398.html

→放射光科学研究施設・BL-4B2のwebページ
  http://pfwww.kek.jp/users_info/station_spec/bl4/bl4b2.html
→放射光科学研究施設・BL-3Aのwebページ
  http://pfwww.kek.jp/users_info/station_spec/bl3/bl3a.html
→PF NEWS 八島助教授の執筆記事
      「高温粉末回折法の開発と精密構造物性」(pdfファイル)
  http://pfwww.kek.jp/publications/pfnews/23_2/p20-26.pdf

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[図1]
高分解能放射光X線回折法による結晶構造と電子密度分布の解析。(a)光学系の模式図。左側から放射光X線を平板状の結晶試料に入射し、結晶から出てくるX線回折シグナルを測定する。入射方向とシグナルの成す角度2θに対して回折X線シグナルの強度をプロットしたデータを(b)と(c)に示す。(b)通常のX線回折データ。(c)放射光X線回折データ。調べたい(d)結晶構造と(e)電子密度分布の一例。
拡大図(67KB)
 
 
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[図2]
KEKフォトンファクトリーのビームラインBL-3A の回折計に設置した試料加熱装置。検出器は1本のみである。
拡大図(98KB)
 
 
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[図3]
KEKのフォトンファクトリーのビームラインBL-4B2 の回折計に設置した新型の試料加熱装置。検出器が6本あり、高速測定が可能になった。
拡大図(63KB)
 
 
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[図4]
新型加熱装置を用いて、フォトンファクトリーの放射光により得られた、摂氏1401度におけるチタン酸カルシウムペロブスカイトCaTiO3 の(A)結晶構造と(B)電子密度分布。
拡大図(39KB)
 
 
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[図5]
新型加熱装置を用いて、フォトンファクトリーの放射光により得られた、摂氏1430度におけるセリアCeO2 の(A)結晶構造と(B)電子密度分布。
拡大図(48KB)
 
 
 
 
 

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