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ステップ構造で磁化を制御 2007.11.15 |
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〜 光電子顕微鏡でみる磁気記憶素子 〜 |
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今年のノーベル物理学賞は「巨大磁気抵抗効果」を発見したフランスとドイツの科学者に贈られました。受賞の理由は「ハードディスクの大幅な小型化に貢献した」こと。10年前には、今のように小さな携帯音楽プレイヤーに、ラックにたくさん入ったCDのコレクションを全部入れて持ち歩けるなんて、考えてもみなかったのではないでしょうか。小さくて大容量のハードディスクによって、わたしたちの生活は大きく変わり、多くの研究者や技術者は、ますます小さく、大容量の記憶素子を作り出そうと激しい競争を繰り広げています。 巨大磁気抵抗効果を持つマンガン酸化物 巨大磁気抵抗効果というのは、物質に磁場をかける、つまり磁石に近づけると、電気抵抗が大きく変化する性質です。1988年にこの性質が発見され、90年代後半には巨大磁気効果を持つ素子を読み取りヘッド(GMRヘッド)に使ったハードディスクが実用化されました。小さな領域に磁気的に記録された情報を、大きな電気抵抗の変化で読み出すことができるため、ハードディスクの小型化・大容量化が飛躍的に進みました。 マンガンの酸化物は、巨大磁気抵抗効果を持つ材料としてよく知られています。そのため、マンガン酸化物を磁気記憶素子として実用化するための研究が世界中でされています。最近、KEK・フォトンファクトリーの久保田正人(くぼた・まさと)助教と東京大学の尾嶋正治(おしま・まさはる)教授を中心とした研究グループで、基板上に巧妙にパターン加工されたマンガン酸化物の薄膜が、外から磁石を近づけることによってどのように磁気を帯びて行くのか、その様子を放射光を用いて観察することに成功しました。 ステップ構造の上に薄膜を加工 薄膜を作るには、下地となる基板が必要です。基板は、とても滑らかな平面に見えますが、原子のレベルで見ると段差があります。原子のレベルで基板を見ると、原子1個分の段差(ステップ)があり、しばらく平面(テラス)が続き、また原子1個分の段差(ステップ)がある..というふうに。これをステップ・テラス構造と呼びます。研究チームは、この基板上に、マンガン酸化物(ランタンストロンチウムマンガン)の薄膜を5ミクロン×10ミクロンの長方形の大きさにパターン加工したものを作りました(図1)。 記憶素子がどんどん小型化している現代では、原子や分子のスケールの大きさの小さな「磁石」や「電極」が、どのようなふるまいをするかを調べることがとても重要です。以前に「未来のコンピュータメモリ 〜ナノ磁石の渦を操る〜」というニュースで、放射光を用いた「光電子顕微鏡(Photoelectron Emission Microscope, PEEM)」という方法を紹介しました。この方法では、光を物質にあてて、飛び出してくる電子を電子レンズで拡大して物質表面の像を見ることができます(図2)。久保田さんたちも、この新しいマンガン酸化物の薄膜の磁化の様子を観察するために、SPring-8の放射光を用いた光電子顕微鏡観察を行いました。 光電子顕微鏡でみた磁化のようす 光電子顕微鏡で観察したものが図3です。青い部分は放射光の方向と同じ向きの磁力線があることを、ピンクの部分は逆向きの磁力線があることを示しています。基板のステップ構造に平行な磁場をかけたときには、磁力線の方向が一様な「単磁区構造」という構造になりました(図3a)。 一方、同じ薄膜にステップと垂直な方向に磁場をかけた場合、単磁区構造にはならずに、いくつかの磁区に分かれた「多磁区構造」を取ることが、光電子顕微鏡の像からはっきりわかりました(図3b)。 これには、基板のステップ構造による効果と、マンガン酸化物のパターン加工による効果の2つの作用が関係しているようです。ステップと並行に磁場をかけたときにはこの2つの作用が協力的に働き、ステップと垂直に磁場をかけたときには2つの作用は競争的に働きます。このふるまいは理論計算から予測された構造とよく一致しました(図4)。 放射光を用いた光電子顕微鏡で磁化のようすを直接観察することで、基板のステップ構造によって、マンガン酸化物の磁化のふるまいを制御することができることがわかりました。この研究成果は、小型で大容量な新しい磁気記憶素子の開発につながります。 この研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)として行なわれたものです。研究成果は米国の物理学会誌「Applied Physics Letter」に発表され、10月30日にオンライン公開されました。
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