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先生。出てますよ、ビームが! 2008.2.21 |
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〜 動き出した富士テストビームライン 〜 |
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種類やエネルギー、位置などがあらかじめよくわかっている粒子のビームを測定器にあてて、測定の性能や精度を調べるための「富士テストビームライン(FTBL)」という実験施設の建設が、KEKB加速器の富士実験室で進められていることは、以前、お伝えしました。この建設は予定通りに完了し、昨年10月から、すでに4件のテスト実験が終了しました。FTBL は、国内では貴重な、測定器開発のための高エネルギービームラインとして存在を示しつつあります。今回は、このFTBLの立ち上げ調整作業(コミッショニング)の様子をお伝えします。 テストビームを求めて KEKには従来、陽子加速器(KEK-PS)に設置されていた測定器開発のためのテストビームラインがあり、測定器の研究開発に非常に有効に利用されてきました。しかし、KEK-PSは2006年3月に共同利用施設としての使命を終え、現在建設が続く大強度陽子加速器施設(J-PARC)へとバトンを渡しました。 その結果、国内には測定器開発のテストに使える高エネルギーのビームラインが存在しなくなってしまい、測定器のビームテストを行うために、研究者が海外に出かけていくケースも増えてきました。 そこで、Bファクトリーの測定器開発を始めとする測定器の試験開発に携わる研究者は、何とかどこかにテストビームラインを作ることが出来ないか、ボランティアベースでの検討作業が始まりました。KEKには、実験のための加速器から試験開発用の加速器まで、いくつかの加速器がありますが、検討を進めた結果、テストビームラインを作れる可能性があるのは、世界最高の強度を誇るKEKB加速器しかないという結論になりました。 ここからが頭の使いどころでした。新たなビームラインを加速器に建設するとなると、加速器の運転が停止している期間中に行わなければなりませんし、建設コストもかかります。更に根本的な問題として、実験遂行中のKEKB加速器からビームを直接分けてもらうことはできるのでしょうか? 埋もれているビームを活用 最初の2つの課題は何とか解決できるとして、KEKBからビームを分けてもらうことは、残念ながら、少しでもKEKBの性能を落とす様な設計の変更が許されないので、できない相談でした。KEKBには、極めて過酷な国際競争を勝ち抜かなければならない使命が課せられています。それでは、KEKBの性能に直接影響を及ぼさない、埋蔵されているようなビームはないのでしょうか?埋蔵金ならぬ、埋蔵ビームです。 加速器の運転により発生する放射線や、ビームライン建設の立地条件の検討を重ねた結果、一つの候補が見つかりました。KEKBの8GeV電子リングの富士直線部に設置された電磁石から発生するガンマ線です。これまで、このガンマ線は、特に利用されることもなく、直線部末端で吸収されていました。末端のビームパイプの形を工夫することで、このガンマ線を効率的に真空のビームパイプから取り出し、タングステンの標的に当てて、高エネルギーの電子ビームを作り出すことが可能になります。この電子ビームを、電磁石を並べてKEKBトンネルの外へと導けば、KEKBの運転に支障なく、テストビームを得ることができるのです(図1、2)。 調整作業開始 FTBLの建設作業は、驚くほど順調に行われました。そして、これと平行して、ビームラインの立ち上げ調整作業(コミッショニング)の準備も進められました。並べられた電磁石は12台で、このビームラインの上流と下流※で正しくビームが導かれていることを確かめていかなければなりません。しかも、調整中は、KEKBに対して、何らの影響を及ぼすことは許されません。もちろん、調整に合わせてKEKBを運転してもらう様なことも出来ませんので、1台の検出器をビームラインの上流から下流に順に移動してビーム位置を測定する様なことは出来ません。従ってKEKBの運転開始前に、予め何台かの検出器を設置して、KEKBの運転に合わせて効率よくコミッショニングを進められるように準備しておく必要があります。 ※ ビームの流れてくる方が上流、流れていく先が下流。 この準備には人手を要します。そこで、将来のユーザーとなるであろう、全国の大学の研究者に呼びかけて、ボランティアを募りました。これには多くの研究者がかけつけてくれました。幅1cmのシンチレータを用いた、有感領域4cm×8cmを有する薄型の2次元ビーム位置測定器7台を製作し、設置を完了させて、10月2日のKEKBの運転再開を待ちました。(KEKBは、数ヶ月に及ぶ夏場の保守点検期間を経て、10月2日に運転を再開する予定でしたので、そのスケジュールに合わせたわけです。) 「あっ。なんか来てる。」 KEKB の運転が開始されれば自ずとガンマ線は放出されます。FTBLへ取り出す電子ビーム量が最大となる3GeVに電磁石を設定しました。FTBLは、万全の設計と建設を行っているわけですから、テストビームラインにも電子ビームが到着するに違いありません…、が、携わる研究者は、少なくても2〜3日は、徹夜作業が続くな…と思っていたようです。 KEKB の運転が開始されました。富士実験棟の一室で、ビームの状態をモニターする画面を見ながら、いよいよ、電子ビームを導くビームシャッターを開けます。では、当時のコミッショニングの様子を実況風で。 「じゃあ、シャッター開けますね。あっ。なんか来てる。」 『レート(電子ビームの量)は?』 「10Hzくらい(10個/毎秒。期待の量の数分の一)。」 『ほんと?そんなに来てるの?何にも調整してないのに?今、どこのレートを見てるの?』 「上流と下流のコインシデンス(同期)を見てます。」 『下流って、どこ?』 「最下流です。」 『えっ。ほんと?最下流って?何にも調整してないのに?』 「先生。出てますよ、ビームが!」 続いて、ビームの正体が、電子であることを確認しなければなりません。こんなにすぐにビームが出るとは思っていなかったため、急遽、鉛ガラスカウンターを探しに走ります。上流のカウンターとのコインシデンスをとり、確かに電子がビームラインによって運ばれていることを確認しました。コミッショニング初日は記念撮影をして終了(図3)。 続いては、実験エリアでのビームの広がり(ビームプロファイル)の測定です。結果は、水平方向で4cm、上下方向はそれ以上のサイズがあることが解りました(図4)。これは、予想の2cm×2cm に比べると幾分広がっていました。 テスト実験開始。そして、さらなる改良へ。 設計値に対して、ビーム強度の不足や、広がり過ぎはあるものの、すでに、十分に、利用可能な範囲のビームの状態にあることが確認出来ました。待ちに待った、ビームテストの開始です。トップバッターは、FTBL立ち上げの大きなインセンティブとなったBelle測定器のシリコンバーテックス検出器(SVD)の試験でした。以降、12月までに4つの測定器のビームテストが行われました。 年が明けて2008年2月から、更なる精密なコミッショニング作業が開始されました。今回のコミッショニングでは、ビーム強度の増大を中心に幾つかの試みが行われ、2月末から再び始まる測定器のビームテストに備えます。 FTBLは、暫くは、保守作業も含めてボランティアベースで運営されて行くことになっています。全国の大学などから集まる研究者と共同で、より良質なビームを得られるように改良を施し、共同利用実験を始め様々な測定の現場で、測定器の性能を高めることが期待されています。 |
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