宇宙線観測気球実験



BESS実験の特徴

 気球実験である、というのが最大の特徴です。 衛星打ち上げに比べて安価であるという点、衛星に比べて大きな測定器を使用できるという点、 測定器を毎回回収し改良を加えられるという点、などが大きなメリットです。

 測定器に関しては、地上の加速器実験で培われた技術を駆使することによって、気球実験特有の軽量・低消費電力・耐衝撃性という条件を満足しながら、 大きな視野を持ち、広いエネルギー領域を一度に観測でき、運動量分解能や粒子識別能力に優れた気球搭載型測定器を実現できました。

 この高い性能をもって多量の陽子・ヘリウム核成分などのバックグラウンドの中から微量の反陽子成分を確実に検出することが可能となっています。 実際に、毎年BESS測定器を改良し、性能を向上させることにより、実験を重ねるたびに質的に向上した物理の知見を得ています。
  
 ■何故気球で測定器を打ち上げるのか

 宇宙から飛来する宇宙線が地上に到達するまでには1平方センチあたり1kg分の空気を通過してこなければなりません。 このような厚い空気層を通過してくる間に宇宙から飛来してきた宇宙線の多くは空気と衝突反応を起こしてしまい、地上からでは地球に飛来してきた宇宙線の姿そのものを捉えることが困難なのです。


 BESS測定器が大型気球で打ち上げられる高度37km上空(航空機高度の3倍以上)では大気圧は1/200気圧となって、 宇宙線が通過してくる空気の量も1平方センチあたり5g程度と小さくなります。

 こうして空気の影響を避けて宇宙線の様子を直接捉えるために気球で測定器を高空に打ち上げるのです。
  
 ■何故カナダで観測をするのか

 地球は大きな磁石であり赤道上空では磁力線は水平方向に走っています。そのために宇宙から飛来する低エネルギー荷電粒子は 低緯度地域では磁力線に巻きついて地球に到達できません。一方磁極に近い地域ではこの地磁気に影響が少なく、BESS実験の目指す低エネルギー荷電粒子の観測に適しているのです。



カナダ・米国国境から1000kmほど北のカナダ北部は北磁極に近く、また森林地帯で安全であり、さらにアルバータ州の近辺は大平原地域で、 実験終了後の回収に便利など気球実験に適しているのです。


気球はマニトバ州リーンレイクで打ち上げられ、約20時間をかけて約1,000km飛行します。
実験終了後、測定器はパラシュートで降下し、アルバータ州ピースリバー近郊で回収されます。