中性子回折法による新型電池の研究



私たちの研究 1 - 中性子回析法 -
 
 ■研究の目的

 一般に電池材料の研究は基礎研究、応用研究、実用化研究に分けられますが、大学や国立研究機関の主な研究目的は基礎研究または応用研究に対応します。
 本研究機構でも、構造とその変化を精密に決定し、それらと性能との関係を基礎的に調べる基礎的な研究と、性能アップにつながる方法をさぐる応用的な研究を行っています。

 
 ■電池性能と構造の変化には密接な関係がある

 リチウムイオン電池の正極・負極では、充電・放電に伴ってリチウムイオンが挿入されたり排出されたりしますが、それに伴って正極・負極物質の構造は大きく変化します。

電池としての性能を上げるためには充電・放電による構造の変化を充分に知り、リチウムイオンの出入りがスムーズに何度でも行われる条件を探し出してやる必要があります。構造の変化を知るために中性子回折法が使われているのです。

図:八面体はマンガンと酸素からなる[MnO6] 八面体、大きな赤丸はリチウムを表し、リチウムをつなぐ線は、リチウムが動く経路、小さな赤丸はリチウムの準安定的な位置を示します。
 
平面ではわかりにくい結晶構造を、Quicktime VRを使って立体的に見ることができます。


 
 ■結晶構造を調べる回折法とは?

 最近の電子顕微鏡は幾つかの原子が見えるくらいに分解能が上がってきてはいますが、それでも定性的な手段であり結晶構造を精密に調べることには向いていません。電池の研究には、リチウムや酸素原子の位置や欠損を求める必要がありますが、電子顕微鏡は位置を精密に調べることは不得意で、リチウムはおろか酸素のような軽元素の場合はほとんど見えません。

一方1Å(オングストローム)程度の波長を持ったX線や中性子の場合は、結晶格子面でブラッグ反射させ、その強度や位置を解析することにより、 結晶構造を精密に調べることができます(1Å=10−10m:100億分の1メートル)。 回折法と呼ばれるこの方法では通常千分の1Å程度の精度で原子の位置を決めることができます。
ブラッグ反射

 ブラッグ反射は波長=2×格子面間隔×sinθ(θは散乱角の2分の1)ですから、中性子発生源と検出器の間に試料をおいてやり、ブラッグ反射を起こす波長とθを調べれば格子面間隔が求まるのです。


 
 ■中性子回折法の利点

 中性子回折法はX線回折法と比較し水素、リチウム、酸素など軽元素を高精度でとらえることができるために多くの研究に用いられてきました。 これまでは物理科学分野以外には普及していなかったのですが、10年前の高温超伝導ブームをきっかけに材料開発への利用が急速に拡大してきました。
リチウムイオン電池において重要な役割を演じている元素はリチウムで、燃料電池の場合は水素や酸素ですから、中性子回折法は21世紀のエネルギー材料開発にとって非常に重要な貢献が期待されております。


図:次世代正極材料の結晶構造

 図は新しい正極材料の一つであるリチウムマンガンスピネル中性子回折法で調べた場合とX線回折法で調べた場合を比べたものです。 原子の位置を山の高さ(等高線)で表現していますが、X線回折法ではぼやけて見えている上に、リチウム原子は全く見えていません。 それに対し中性子回折法ではどの原子も鋭く同じように見えています。このことが電池材料の構造を決める上で大変重要なのです。