中性子回折法による新型電池の研究



研究の例 2

 ■リチウムマンガンスピネル正極材料
東工大菅野先生、産総研小林先生との共同研究


 正極として用いているLiCoO2のコバルトの資源的な問題などから、代替物質としてリチウムマンガンスピネルが現在精力的に研究されています。この物質はLiCoO2に比べ、高温(〜50℃)で保存した時のサイクル特性の劣化(充放電の繰り返しによる性能劣化)が大きく、寿命が短くなること等の欠点を持っています。

これらの原因は
 ・リチウムマンガンスピネル中のリチウムや酸素原子の組成のわずかなずれ
 ・充電・放電時における大きな体積変化や相分離
 ・マンガンの電解液への溶出
などが関係すると考えられています。

従来は、電解液や負極表面を検討することで、電池の性能劣化の原因と劣化を抑制する方法を探ろうとする研究が主体でしたが、本研究では正極材料そのものの構造変化に焦点をあてています

私たちはまず、正極材料であるリチウムマンガンスピネルに対し、合成条件と生成物の組成・構造との関係を詳細に明らかにしました。
通常、充電後や化学的にリチウムを脱離した試料では、骨格構造(マンガンと酸素からなる [MnO6] 八面体)を維持しながらリチウムが脱離していきます。 合成条件によっては骨格構造を構成する酸素も欠損します。

右の図は、見やすくするために、骨格構造を形成するマンガン原子酸素原子の一部を取り出して描いたものです。青丸はマンガン原子、赤丸は酸素原子を示します。

次に、リチウムマンガンスピネルを電解液中で種々の条件で保存し、構造評価を行ったり、 試作した実用円筒電池を充放電後、種々の条件で保存し、解体後に正極を取り出して構造評価を行いました。

その結果、より高温で保存する程、骨格構造を形成する原子位置に欠陥が増大し骨格構造を著しく不安定にすることがわかりました。

骨格構造が壊れてしまうと吸蔵量は増大しなくなるわけです。今回の結果は充放電特性と構造変化との因果関係を調べることが重要であることをしめしました。


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