研究機構で研究する物理学と人間との拘わりとしては、加速器からの粒子ビ−ムを使う放射線治療がある。その原理と方法、治療実績などを示します。
放射線治療の理想は目的とする対象(腫瘍などの病変)のみに放射線を照射し、周囲の正常組織へは全く照射をしない事である。この理想に近づくための一つの方法が陽子線治療である。陽子は水素の原子核で、そのエネルギーを失い止まる際に周囲に極めて大きいエネルギーを付与する。横軸に飛程に沿った距離を、縦軸に周囲で引き起こした電離量を取ると飛程の終りの部分で鋭いピーク(ブラッグ・ピーク:図1)を作る。



陽子線の等線量曲線
がん病巣以外の肝組織には殆ど放射線が当たっていないことが分かる。
従来の放射線治療で主として用いられているX線の物質中での減衰の仕方はエネルギーにより異なるが概ね緩やかに(指数関数的に)減衰していくので、これとは大変違っている。陽子線で照射する際はブラッグピークを標的に当てるようにすれば、それよりも遠い側にある正常組織は全く照射せず、近い側の正常組織にはX線と比べて比較的少ない線量を照射することになる。これによって、照射対象に大きな線量による強い治療効果を得、正常組織には比較的少ない線量による軽い障害に止めようとするものが 陽子線療法の原理である。
人体の深い所にある腫瘍などの疾患を照射するには陽子を加速して200ー250MeVの高いエネルギーにしなければならないが、そのためにはシンクロトロンやサイクロトロンなどの加速器が必要である。従来は物理学研究用に作られた巨大な加速器を用いて陽子線治療が行われていたが、小型で運転が比較的容易な病院内に設置できるものが近年作られるようになった。




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