1992年に報告された集計では世界各地の13施設でこれまでに治療された11763人の内、46%が頭蓋内の小さな病変(下垂体腫瘍、動静脈奇形など)で32%が眼腫瘍(脈絡膜黒色腫)、残りの22%がその他の悪性腫瘍の患者であった。我が国では1979年に放射線医学総合研究所(放医研)で、1983年に筑波大学で臨床研究が開始された。放医研の陽子線治療患者総数は1995年で86人と比較的少ない。筑波大学では1998年7月現在で593人を治療し、その内、肝臓癌が28%、食道癌と脳腫瘍が各々8%、肺縦隔腫瘍、頭頚部癌、子宮および腟癌が各々7%であった。1992年の一年間に世界各地で治療された1336人の患者の56%が脈絡膜悪性黒色腫で、15%が前立腺癌、4.5%が脊索腫または軟骨肉腫、その他の病変は3%に達していない。以上の如く、初期には頭蓋内の小さな良性病変が主に治療されていたが、近年では躯幹の悪性腫瘍の治療にも用いられている。 筑波大学の治療成績は、特に肝臓がん、食道がんについて手術に勝るとも劣らない結果を出しており、一層の発展が期待される。

左:直径5 cmの肝がん(矢印)。腎機能が悪いため切除不能。
右:陽子線照射後、がんは消失した。

KEKの陽子シンクロトンを使った筑波大学陽子線医学利用研究センターでの治療風景
陽子線療法はこれまで30年以上にわたり、物理学研究用の加速器を用いて臨床研究が行われ、いくつかの部位の腫瘍に対して期待どおりの優れた成績を挙げた。しかし、線量分布が良いという特徴を十分 に発揮し、効率良く臨床研究を行うには、患者の周りを回転して任意の方向から照射する事のできるガントリーを備えた装置を病院内に建設する必要がある。幸い、既に稼働している米国のロマリンダ大学に加え我が国の筑波大学、国立がんセンター、米国ボストンのマサチューセッツ総合病院などの世界各地の数施設にそのような装置が近く建設されるので、臨床研究は飛躍的に進展するであろう。




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