レクチャー概要
佐野幸恵 Yukie SANO
自己紹介
奈良女子大学大学院の物理科学専攻(博士前期課程)修了後、4年間、消防システムのエンジニアとして日本中を飛び回って仕事をしました。いろいろと悩んだ挙句、一生の仕事として、やっぱり研究に関わることがしたいと思い、再び大学へ戻りました。2007年に東京工業大学大学院(博士後期課程)の社会経済物理の研究室に入学し、当時、まだ萌芽期だったソーシャルメディアに関する研究をスタートしました。その後は、日本大学理工学部の助手を経て、2014年より筑波大学の助教として、研究室で学生を教える立場になりました。ちなみに、子供の頃の夢は天文学者か宇宙飛行士でした。
講義内容
TwitterやInstagramなど、現在の私たちの身近にあるソーシャルメディア。物理学と何の関係があるのでしょうか?実は、大量のデータに基づいて、あるパターン(数学的な法則性)を導き、それを再現するモデルを構築することで現象を深く理解する、という典型的な物理学の営みが、ソーシャルメディアを用いることで、人間社会でも行えるようになったのです。そして今、世界中の科学者が「人間社会における法則」を見つけようと活発に研究を行っています。講義では、具体的にどうやってデータを解析し、何がわかってきたのかを説明します。また、自分たちの身近なデータを使って、簡単な計算もやってみましょう。
関口仁子 Kimiko SEKIGUCHI
自己紹介
東京大学に入学し、理学部物理学科に進学しました。その後、同大学院の博士課程を修了し博士(理学)号を取得しました。大学院に進学後は、サイクロトロンという加速器を使って原子核物理の実験研究を行っています。2002年からは埼玉県和光市にある理化学研究所の研究員として、2010年からは東北大学の教員として、日々研究を進めています。
私の興味は、原子核の中で働く「核力」と呼ばれる力を理解することです。特に、原子核を構成する核子と呼ばれる粒子が三つ集まった時に働く三体力という力を実験から明らかにしようとしています。実験は理化学研究所のRIビームファクトリー、大阪大学核物理研究センター、東北大学CYRICと様々な加速器施設で行っており、私は一連の実験のプロジェクトリーダーとして研究を遂行しています。
幼い頃から日本の歴史や古典に触れる事が好きで、よく歴史物語を「妄想」していました。現在はそれに費やす時間は少なくなりましたが、歴史物語をつくることと物理のストーリーをつくることとは、案外似ているのではないか、などと思っています。
講義内容
すべての物質は原子からできています。原子の中をさらにのぞくと、その中心に原子核があります。20世紀初頭、原子核に働く「核力」よばれる力を解明することは物理学者の大きな夢でした。その金字塔となる理論を提唱したのが湯川秀樹博士です。湯川理論から80年、21世紀に入り核力研究は新たに面白い状況になっています。その一つが、私が研究を進めている三体力と呼ばれる核力です。三体力は、元素合成や中性子星の性質を理解する上で、とても重要な役割を果たすと考えられています。実は、日本の女性研究者のパイオニアである湯浅年子先生もフランスのオルセー研究所で三体力の実験に挑まれました。講義では、そのあたりの歴史背景も含めて三体力のお話しをさせて頂きます。
Nathalie Palanque-Delabrouille
Profile
Nathalie Palanque-Delabrouille graduated from the French engineering school Telecom Paris in 1992. She obtained her PhD in Physics in 1994, jointly between Université Paris-7 (France) and University of Chicago (USA). Since then, she is working as a researcher in physics at CEA (France).
ナタリー・パランク=デラブロイ先生は1992年にフランスのテレコムパリ工業学校を卒業し、1994年にパリ第7大学(フランス)とシカゴ大学(アメリカ)で博士号を取得しました。その後、原子力・ 新エネルギー庁(フランス)の物理学研究者として働いています。
Her main topics of research are cosmology (studying the history and evolution of the Universe) and astroparticle physics (studying the most violent phenomena that occur in the Universe such as black hole collisions or stellar explosions). She was a invited for one year as a visiting scientist in the National Laboratory of Berkeley (USA) in 2013, to work on the preparation of a new cosmology experiment dedicated to the study of dark matter and dark energy in the Universe. She obtained several prizes for her research: the Thibaud award of the French Physics Society in 1997 for her PhD work, the Thibaud award for her contributions to research in physics in 2010, and recently the prize Irene Joliot-Curie « Female scientist of the year » for her research career and contributions to the promotion of women in science.
ナタリー先生の研究テーマは宇宙論(宇宙の歴史と進化の研究)と宇宙素粒子物理(ブラックホールの衝突や星の爆発といった、宇宙で起こる最も凄まじい現象の研究)です。2013年には客員研究者としてローレンス・バークレー研究所(アメリカ)を訪れ、ダークマターやダークエネルギーを調べるための新しい宇宙実験の準備を行いました。また先生は数々の受賞をされています。博士論文の業績と物理学研究の貢献に対し、それぞれ1997年と2010年にフランス物理学会よりティボー賞を受賞されました。最近では、先生自身の研究業績と科学分野における女性の活躍への貢献によって、イレーヌ・ジョリオ=キュリー「女性科学者」賞を受賞されました。
In parallel to her research, she is also heavily involved in teaching (she obtained a Prize of Excellence in Teaching of Undergraduates from the University of Chicago in 1994) and in outreach. She wrote two outreach books (in French). One of them was given the prize of « astronomy book of the year » in 2012.
先生は研究活動だけでなく、教育とアウトリーチ活動にも熱心に取り組んでおり、1994年にはシカゴ大学より学部生教育優秀賞を受賞されました。さらに2冊の本を出版し(フランス語)、そのうち1冊は2012年に「天文宇宙書籍」賞を受賞しています。
Abstract
Research is a mix of many passions: it is the pleasure of working within a team of people who all have the same passion, it is the pleasure of contributing to the resolution of mysteries or of designing an experiment designed to address an unknown issue, it is the pleasure of working with students, teaching them how to become more efficient and more autonomous.
研究はたくさんのパッション(情熱)が混じり合ったものです。同じパッションを共有する仲間とチームワークで研究を行えることが楽しいです。謎の解明に取り組んだり、未知の現象を明らかにする実験を計画したりすることも楽しいです。さらに学生と一緒に研究を行う中で、彼らの効率性と主体性が磨かれるように指導していくことも楽しいです。
My field of research is cosmology, and one of the main mysteries we are trying to tackle is the fact that all the stars, the planets, the gas in the Universe only constitute a tiny fraction of the total amount of matter that is out there. Most of the matter in the Universe is dark, and of unknown nature. I will illustrate how we have come up with that unexpected result, and how we are trying to understand what the nature of this dark matter is.
私の研究テーマは宇宙論です。大きな謎となっているのは、宇宙にある全ての星や惑星やガスは、宇宙の中にある全ての物質のほんの一部を構成しているに過ぎないということです。宇宙にある殆どの物質は光によって見ることができず(ダーク)、その性質はわかっていません。レクチャーでは、この予想外の結果についてどのように考え、またダークマターの性質についてどのように理解しようとしているかを解説します。