素粒子現象論
現代の素粒子物理学は、クォーク、レプトンを物質の基本粒子とし、強い力、弱い力、電磁力の自然界の三つの基本的な力をゲージ理論という枠組みで記述する素粒子の標準模型をもとにして理解されています。しかし、そのなかでも素粒子の質量生成の背後にあるダイナミックスは 未知の領域です。また、力は統一されるか、暗黒物質の正体は何か、宇宙初期にどのようにして反粒子が消え物質優勢宇宙が生じたかなどの問題を解決するには標準模型を超える物理が必要です。その解明を目指してLHCをはじめとする加速器実験や宇宙観測実験が行われています。素粒子現象論グループでは、標準模型を超える物理模型としてどのようなものが考えられるか、そして現行および将来の実験や観測でどのように検証できるかについて研究を進めています。
格子QCD
格子QCDグループでは、量子色力学(QCD)を中心とする非摂動的な場の理論を数値的な手法で研究しています。格子QCDは、文字通りQCDを4次元の格子上に定義するものです。これによって本来は無限個の自由度をもつ場の理論を有限自由度の理論に制限し、数値計算ができるようにします。場の理論を定義する経路積分を直接数値的に計算することで、ファインマンルールを使う通常の摂動計算によらない計算が可能になります。低エネルギーQCDでの粒子の質量はもちろん、QCD真空の性質や粒粒子の反応などを研究しています。
弦理論・場の量子論
素粒子物理学は新たな時代を迎えています。LHC実験でのヒッグス粒子の発見やプランク衛星による宇宙背景輻射の詳細測定などにより、素粒子と宇宙の標準模型が確立しました。一方で、標準模型では説明できない現象も明らかになってきました。特に、宇宙初期のインフレーションを何が引き起こしたのか、宇宙を再び加速膨張させている暗黒エネルギーの正体は何なのか、といった問題の解決には、物質と重力、そして時空の統一的な理解が必要です。さらに、なぜ素粒子は世代構造をもつのか、ブラックホールに失われた情報は回復できるのか、なぜ空間は3次元なのか、といった難問に取り組むためには、これまでの場の量子論の枠組みを超えた新しい考え方が必要です。超弦理論は、重力と物質を統一的に扱うことのできる唯一の理論であり、これらの諸問題を解決する重要な糸口を与える理論だと期待されています。
弦・場の理論グループでは、非平衡系の場の量子論、超弦理論、行列模型、ゲージ重力対応など、これまでの場の量子論の枠組みを超えた様々な手法や考え方を取り入れることで、これらの諸問題の本質的な解決を目指しています。
宇宙物理理論
宇宙物理理論グループでは、宇宙を直接の対象とする理論的研究を進めており、重力・素粒子・原子核に関する基礎理論に基づいて、新たな天体現象や宇宙の起源と進化の謎を追求しています。ブラックホール、宇宙線、インフレーション宇宙論などを通して最先端の基礎理論を検証し、最終的には新たな自然の側面を明らかにすることが目標です。
ハドロン原子核理論
ハドロン原子核理論グループでは、エギゾチックハドロンやストレンジネス原子核等の新しいハドロン原子核の存在形態から、高エネルギーハドロン反応による核子や原子核の内部構造にわたる広い分野の研究を進めています。核子は基本粒子であるクォークとグルーオンから構成されています。核子やその集合体である原子核をクォーク・グルーオンの自由度で理解することは、基礎理論である量子色力学の摂動論的および非摂動論的側面の検証のみならず、原子核を新たに基礎的な視点から捉える意味で重要です。さらに、J-PARC(大強度陽子加速器施設)で展開される物理に理論面から貢献することを目指して、KEK理論センター・J-PARC分室として東海で理論の研究活動を行っています。
量子基礎論
量子力学は相対性理論と並んで現代物理学を支える最も基礎的な支柱であり、素粒子・原子核といったミクロな世界の理解には必要不可欠な分析言語(道具)となっています。また日常的なスケールでも様々な物性を理解する上で重要であり、さらに宇宙初期の理解にも有益な知見を与えるものになっています。これらの有用性の背後には、物理量の局所的な実在性の否定や粒子と波動の2重性といった、我々の常識を覆すような量子力学の革新的な特性があることが分かっていますが、それらが自然界にどのように現れているかについては未知な部分が多く、十分な理解には到達していません。量子礎論の研究は、このような量子力学の基礎的特性を様々な自然現象の中に見出すことで、自然現象の基盤をより深く究明し、将来の基礎物理への礎となることを目標としています。