セミナー 2014年

seminar2014

非可換な偏光物理量の連続測定

  • SPEAKER 飯沼昌隆, 広島大学
  • PLACE Seminar room, Kenkyu honkan 3F
1988年にAharonovらによって提案された弱測定は、通常の量子測定とは異なり、状態をほぼ壊さずに測定する量子測定法である。初期状態をほぼ壊さずに情報を得られるため、これまで測定不可能とされた重ね合わせ状態などの中間状態での測定や、運動量と位置のような非可換な関係にある複数の物理量の連続測定を可能にする。これらの弱測定は、近年の量子測定技術の進展とともに従来では思考実験であった量子パラドックスの実験を可能しただけでなく、多くの場合、確率が負や複素数となる結果をもたらす。さらにこのとき弱測定で得られる実験値、すなわち弱値は、測定物理量の固有値の範囲を超えて大きく増大する。弱測定がもたらすこのような奇妙な結果は、従来の延長線上では考えにくいものであった。しかし近年行った偏光物理量の連続測定実験について、量子力学の数式に頼らず通常の確率論と統計的手法のみを使って、実験データから測定前の確率分布を推定したところ、量子力学や弱測定で予想される確率分布(Kirkwood-Dirac分布関数)と見事に一致した。この結果から弱値は直接得られない測定前の確率分布の平均値を表していること、測定前と測定後の確率分布は基本的に異なること、負や複素数の確率分布が本来の量子系の統計的性質である可能性が高いこと、さらに弱測定はその特性を見るきっかけを与えてくれたこと、などが分かってきた。これらは非可換な二つの偏光物理量の連続測定において初段の測定の強さを弱い領域だけでなく強い領域に至るまで行った測定からの帰結であり、量子状態は負や複素数の値を含む拡張された確率分布で記述できることを示唆する結果である。さらにこの確率分布は直接測定はできないが、その意味では密度行列と同じであり、しかも完全に1対1で対応している。セミナーでは、偏光を使った弱測定実験の結果と測定の強さの弱い領域から強い領域まで測定した連続測定実験の結果を紹介し、独立な両者の実験結果から上記の解釈ができる根拠を示す。


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