中性子実験用のオブジェクト指向データ解析システムの開発研究を行っています。

目的・ビジョン

中性子実験のデータ解析ソフトウエア(Manyo-lib)の研究開発と、高分子材料の中性子散乱実験データの解析用シミュレータを開発しています。

概要

オブジェクト指向データ解析システムManyo-Libは、物質生命科学研究施設(Materials and Life Science Facility, MLF)の計算環境において、データ解析システムの中核となるフレームワークです。 Manyo-Libは、多人数での開発と利用が想定され、また長期間にわたって研究施設としてサポートを行えるオブジェクト指向の概念に基づいて設計と開発が行われています。

Manyo-Lib は、中性子実験で共通に使用する機能(データコンテナ、ネットワーク分散処理環境、並列化機能、データ解析演算子)を提供することで、個々の分光器の仕様、研究者の目的に合致したデータ解析ソフトウエアの構築の基盤となります。データフォーマットは、NeXus (http://www.nexusformat.org/)を採用しています。このような基盤ソフトの整備は、物質科学分野では初めての試みとなります。

また、MLFの解析環境に接続できるシミュレータも開発しています。高分子の分子を構成するモノマー、鎖、分子のそれぞれをソフトウエアの中では階層的にオブジェクト指向を用いて記述しているため、高分子がいかなる分岐構造やトポロジーを持っていてもシミュレーションできるという特徴を持ちます。

補足説明

大強度陽子加速器施設(J-PARC)の研究施設のひとつである物質生命科学研究施設(Materials and Life Science Facility: MLF)は、世界最高強度のパルス中性子/中間子ビームを用いて物質科学と生命科学実験を行う実験研究施設であり、2008年5月に中性子と中間子ビームの供給が開始されました。

MLFには、23の中性子実験用のビームラインが整備され様々な研究分野に対応する分光器が設置されます。従来の放射光や中性子などの物質科学の共同利用に用いられている大規模な散乱装置は、研究分野と研究目的、実験手法に対応した装置制御と解析ソフトウエアが装置ごとに開発され利用されてきたため、施設内でのデータの共有、互換性に問題があるだけでなく、ソフトウエアの長期に渡った維持管理を研究施設として組織的にサポートできない問題が指摘されてきました。

MLFは、米国Spallation Neutron Source (Oak Ridge National Laboratory)、英国Rutherford Appleton Laboratory、仏国Institut Laue-Langevinと並ぶ大強度中性子実験施設として世界的な研究拠点となることが強く期待されています。そのためには、国際協調体制が求められ、実験データのみならず計算機環境の世界標準化が不可欠となっています。