我々は放射線を用いることでミクロ世界を調べることができます。ミクロ世界の探求は自然科学や医学、工学、産業などさまざまな分野で現在も重要な研究テーマです。この研究の発展のためにはミクロ世界の物理現象を正しく理解することが必要です。レントゲンによる放射線の発見以来、これまで数多くの測定や計算によってミクロ世界で起きる物理反応が一つずつ紐解かれてきました。これらの成果を可能な限り数式化やデータベース化することにより、乱数とコンピュータを用いて多種多様なミクロ現象を精度良くシミュレーションすることができるようになりました。これをモンテカルロコードと呼びます。モンテカルロコードはミクロ世界の物理モデルの集大成ですが、その用途はミクロ世界だけでなく、我々の住むマクロ世界まで及びます。すなわち、測定器の設計、物理実験自体のシミュレーション、物質や人体への影響評価、医学利用・診断、新型加速器や施設の設計、宇宙開発などです。現在、モンテカルロコードはミクロ事象すべてを正確に計算できるわけではなく一部に改良の余地が残されています。このグループはモンテカルロコードの高度化というテーマで研究をおこなっており、主に二つのコードを扱っています。
EGS (Electron Gamma Shower) は電子・光子の放射線計算コードとして世界で広く使われてきました。エックス線やガンマ線を使った様々な放射線治療や画像診断の理論的な計算および評価の多くがEGSによってなされてきました。平山・波戸は、扱いの難しい電子の多重散乱計算をより高度化させて計算精度を高めたEGS5をミシガン大・SLACと共同開発しました。現在は医療応用から放射線分野全般において普及と教育活動をグループで行っています。他の統合コードはこのEGSを組み込むことで高度な電子・光子計算モデルを利用しています。
PHITS (Particle and Heavy Ion Transport code System) は原子力機構が中心となって開発した日本産の汎用放射線計算コードです。入力書式が易しくグラフプロッタを内蔵しており、使いやすさが好評です。近年は物理モデルの拡張やインターフェース・評価量の増大などの充実が著しく、国内外で普及が広がるとともに汎用放射線シミュレータとして世界を牽引する役割も担っています。このグループは実際の加速器施設での利用の知見を活かした物理モデルの検証などでPHITSの開発に参加しています。
メンバー
- 杉原健太
- 坂木泰仁
- 岩瀬広
- 波戸芳仁
- 平山英夫