Applications using compact ERL

from basic research to industrial use

様々な超伝導加速器の応用展開

コンパクトERLでは大電流電子ビームの研究開発を行っており、社会に役立つ加速器を見据えて展開しています。

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ERL型自由電子レーザー施設


リソグラフィーに向けた極端紫外光自由電子レーザー(EUV-FEL)

半導体は自動車や家電などのエレクトロ製品の心臓部分を担っています。高集積化、高性能化、低消費電力化を目指して、シリコン半導体の微細加工の技術開発が長年にわたって続けられてきています。リソグラフィーとはその微細加工に使われる技術で、写真の現像と同じ仕組みでシリコンウェハにパターンを形成します。現在の最先端の微細加工はArFエキシマレーザーの波長193nmの光源を使っています。更に微細化を進めるためには、一桁以上波長の短い極端紫外光(Extreme Ultraviolet:EUV)のリソグラフィが有望視されています。現在、EUV領域である波長13.5nmのLPP(Laser-Produced-Plasma)方式による方法で250Wが出力されるようになりましたが、本研究チームではERLをベースとしたFEL光源で10kWの強度を目指して加速器デザインの検討とシミュレーションを行っています。

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加工プロセス用の中赤外高出力レーザー光源開発

ポリエチレン、ポリカーボネイト、ポリ塩化ビニルに代表される樹脂はそれぞれ異なった特性を持ち、用途に応じて、身の回りの工業・商業用部品に幅広く利用されています。レーザー加工は溶接や切断などに用いられ、複雑な形状や高い精度の加工に向いています。樹脂がレーザー光を吸収したときの熱を利用しており、レーザーには波長10.6μmの炭酸ガスレーザーが主に用いられます。ですが、樹脂はそれぞれ異なる吸収スペクトルを持つため、発振波長が可変なFELを用いて、加工効率の向上を目指します。

コンパクトERLの赤外FELでは自己増幅型FELを採用しており、エネルギー回収による大電流運転と大出力CW-FELを目指しています。ビームコミッショニングを通して、将来の大強度EUV-FELの実現に向けた基礎的な研究も行っています 。

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電子ビーム照射施設


核医学用検査薬製造

放射線同位体を結合させた医薬品を体内に投与すると病原体の近くに密集することから、放射線を測定して診断をすることができます。核医学診断と呼ばれ、主にがんの診断などに利用されています。代表的な放射性同位体であるテクネチウム99mTcは半減期が6時間と短く、原料であるモリブデン99Moは海外からの輸入に頼っています。世界情勢によっては輸入が困難となる恐れがあるため、国内の製造が期待されています。研究用原子炉によるものが主流ですが、加速器による製造も国内外で模索されています。電子ビーム照射の場合、エネルギー20MeV, 平均電流10mAで天然モリブデンからおよそ0.5TBq/dayの製造が可能であり、cERLの規模の加速器数台で国内の需要を賄うことができると期待されます。

株式会社千代田テクノルと共同研究の下で、モリブデン溶解およびテクネチウム抽出実験を行い、高純度の取り出しを行いました。写真は抽出したテクネチウム溶液で書いた文字をイメージングプレートで放射線を画像化したものです。

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アスファルト長寿命化

アスファルト舗装は時間の経過とともに劣化し、轍掘れとひび割れが発生します。そのための保守が毎年必要となっており、国土省にとって大きな負担となっています。あらかじめアスファルトに添加剤を混ぜておくと、電子ビームを照射することにより寿命を延ばせるとの研究報告が出てきており、電子ビームをサンプルに照射して、アスファルト硬化の分析などを行っています。

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木材ナノセルロースの生成

木材やパルプから製造される新素材のナノセルロースは、鋼鉄の5倍の強度を持ちつつ重量が5分の1であることから、軽量・高強度・高弾性という特徴を持ち、様々な用途展開が期待されています。ナノセルロース製造では木材組織をナノサイズまで解繊する必要がありますが、広く社会実装するには、省エネ化、低コスト化、量産化が課題となっています。そこで、緻密かつ強靭な細胞壁構造を持つ木材組織・成分を大強度の電子ビームで切断・破壊することによって、ナノセルロース製造効率の向上につながることに着目しています。

画像 ナノセルロース写真(遠藤貴士氏:協力)


小型化・高効率化を目指す次世代超伝導加速空洞の開発

従来の超伝導加速空洞は加工が容易なニオブ金属(Nb)で製作されています。消費電力を小さくするために2K(摂氏-271度)まで冷却する必要があり、液体ヘリウムを大型冷凍機で用意しています。冷凍機の小型化・省電力を目指すには冷却温度を上げることが一番の近道です。そこで、ニオブ3スズ(Nb3Sn)化合物が新しい空洞材料として注目を集めており、国際的な協力の下で開発を行っています。この次世代超伝導加速空洞によって、大強度電子ビーム照射施設を幅広い産業応用で役立てることが期待されています。

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