- プレスリリース
J-PARCハドロン実験施設のKOTO実験が中性K中間子の稀な崩壊で世界最高感度を十倍更新 – ”物質と反物質の違い”の解明に第一歩を踏み出す-
2019年3月4日
大強度陽子加速器施設「J-PARC」のハドロン実験施設で中性K中間子の稀な崩壊を探索する国際共同研究:KOTO実験は、2015年に収集したデータを解析し、中性K中間子が中性パイ中間子と二つのニュートリノに崩壊する割合は三億分の一より小さいという結果を得ました。これまでの世界最高感度を十倍更新しています。K中間子の崩壊を用いて物質と反物質の違い(CP対称性の破れ)を解明する研究が本格的にスタートしたと言えます。今後は、2016年以降に収集したデータの解析による世界最高感度の更新が期待されます。2018年の秋に行った測定器の増強をもとに新たなデータ収集が2019年2月から始まります。
本研究の成果は、物理学の国際的な専門誌である「Physical Review Letters」の2019年1月18日号に掲載されました。
研究成果のポイント
・J-PARCの実験でK中間子の稀な崩壊を探索する感度を十倍更新。
・K中間子の崩壊を用いて物質と反物質の違い(CP対称性の破れ)を解明する研究が本格的にスタート。
用語解説
注1.K中間子
K中間子は、第二世代のクォークであるストレンジクォーク(s)を含む粒子です。第一世代のアップクォーク(u)との組み合わせの“電荷を持つK中間子(K+)”、ダウンクォーク(d)との組み合わせの“電荷を持たない中性のK中間子(K0)”、そして各々の反粒子(K–、K0)があります(下図)。中性のK中間子はK0とK0の二種類あり、粒子と反粒子の関係にあります。
注2.崩壊
高エネルギー衝突反応で生成される粒子は、時間とともに質量が軽いいくつかの粒子に移り変わっていきます。数億分の一秒という、日常生活では考えられないほど短い瞬間に起こる出来事です。粒子の中にあるクォークに相互作用がはたらいて起こるこのような現象を“崩壊”と呼びます。粒子が崩壊するパターンは一通りではありません。様々な崩壊パターンを詳しく調べていくと、どのような相互作用がはたらくのかがわかります。
注3. 寿命の長い中性K中間子の崩壊
粒子と反粒子の関係にある二つの中性K中間子:K0とK0の量子力学的な重ね合わせにより、寿命の長い中性K中間子(KL)と短い中性K中間子(KS)が生じます。KLはその重ね合わせから、CP対称性がマイナスという性質をもっています。中性パイ中間子と二つのニュートリノの系はCP対称性がプラスです。そのため、KL→π0ννは崩壊の前後でCP対称性がマイナスからプラスに変わり、CP対称性を破る崩壊になります。
注4.電磁カロリメータ
電磁カロリメータは、ガンマ線の入射位置、時間そしてエネルギーを測定する装置です。KOTO実験の電磁カロリメータは、直径2メートルの円筒の中に長さ50センチメートル、断面が2.5センチメートル角と5センチメートル角の二種類のヨウ化セシウム(CsI)の結晶を合計で2716本積み上げて作りました(下図)。米国のフェルミ国立加速器研究所で1990年代に行われたK中間子崩壊実験(KTeV実験)に使用されていた結晶を、日米科学技術協力事業のもとで日本に移設しました。ガンマ線のエネルギーはCsI結晶の発光に変換され、発光は光電子増倍管により電気信号となり、その信号波形をシカゴ大学で開発された高速の電子回路とミシガン大学で開発されたデータ収集システムで読み出しています。
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