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15年間諦めず・田中 伸晃氏の挑戦ついにKEK技術賞

素粒子原子核研究所安全グループの田中 伸晃・専門技師の「ハドロンホール方式による研究施設の湿度環境改善」が令和4年度KEK技術賞を受賞し、2月7日に表彰式と受賞発表会が開催されました。素核研からの受賞は2015年以来です。

ハドロンホール方式と呼ばれる、換気量を適切に制御し少ない除湿器で効果的に除湿する方式を応用し、KEKにおける安全で快適な実験環境の実現に多大な貢献をしたことが今回の受賞に繋がりました。

ハドロンホール方式とは

東海キャンパスにある実験ハドロンホールが開設された2007年当時、ホール内はかなりの高湿度で、実験室のフロア管理担当だった田中氏は、結露によりまるでノートが水で浸かっているかのような状況で、環境としては最悪だったと当時を振り返ります。結露により測定器、電磁石などの損傷、絶縁低下による感電の危険性や作業安全上の問題が生じやすくなります。また高湿度は不快なうえ、カビやサビが発生しやすくなるため、人にとっても機材にとっても不適切な環境といえます。

田中氏は結露の原因を外壁に使われていたコンクリートの湿気と考え、給排気ファンを運転したところ、逆に高温多湿の外気がホール内に入ることで環境は悪化。当時のデータを見ても2007年~2009年の8月のハドロンホールの平均湿度は90%以上で著しい結露状態でした。もともと設置してあった2台の除湿器の補修を経て、2010年に3台の除湿器を配置することになりましたが、その効果は必要な除湿の10分の1にも満たないと考えられていました。ところが、湿度は100%から50%へ半減したのです。

結露原因の解明と本技術の再現性

高湿度の原因は外気と特定することはできたものの、実証するには理論的にも説明できなければいけません。なぜ結露が半減したのか。結露原因の解明を日々考え続けていた田中氏は、ある時、J-PARC一般公開の時にシャッターを開放していたことを思い出します。

毎年夏に行われていたJ-PARC一般公開前後の湿度データを確認すると、一般公開時にはハドロンホールのシャッターを開放し、給排気ファンを運転していたため、その時期だけ湿度が高く、給排気ファンを停止すると湿度が下がっていることが判明。外気導入と湿度上昇の関連性を確認し、高湿度の原因は外気であり、換気を減らせば湿度は下がることが分かったのです。こうして、安全で快適な実験環境の実現のため、確実な湿度低下を目指し、換気量を適切に制御し、少ない除湿器で効果的に除湿するハドロンホール方式が確立しました。

田中氏はこの方式を用いて、つくばキャンパスのニュートリノビームラインにおける結露対策に取り組みました。

実験が終了した2006年に温調機能は停止したものの外気導入は継続していたため、湿度上昇に伴い結露が発生し、サビも生じていました。実験終了後も施設は放射線管理区域だったため、放射化した結露水の厳格な管理が求められていました。2011年に空調機、除湿器を導入したものの、翌年になっても高湿度の状況は改善されず、湿度は常に90%以上を記録していました。

2013年に外気導入を一時停止したことで湿度の低下が確認され、外気と連動して湿度が変化することが判明。2015年からニュートリノビームラインの放射線管理区域担当となった田中氏は、同年ハドロンホール方式を導入して外気導入の適正化を図ったところ、湿度は50%以下に改善されました。これにより、田中氏は結露による放射化水生成を抑制し、放射線管理上も適正な環境を実現することに貢献しました。

2019年の技術賞は落選「換気量と除湿量を算出せよ」


除湿の結果は出したものの、2019年のKEK技術賞の受賞は逃しました。そして新たに「換気量と除湿量を示せ」という課題が出されました。外気からの換気量は天候によっても変わり、建物の隙間からの換気量もあり、計測することは不可能で概算値すら示すことは難しかったと田中氏は言います。除湿量の実測値も実際は気温・室温によって変動するため一定ではなく、計測不可能。変動データを根拠とした定量化は難しく、前例も参考例もないまま、3年の年月が経ってしまいました。

参考になる文献を探していた中で見つけたのが、神戸大学・高田暁教授による換気の研究、「書庫の湿度制御に及ぼす換気の影響 実測と数値解析による定量的検討」(『人間-生活環境系シンポジウム報告集』、巻号「44」、出版年2020年、掲載ページ 1-4)でした。この論文の著者の一人である高田教授は、建築を専門として室内環境改善のための研究をしていました。高田教授の研究やご本人からの助言を参考に、除湿量が比較的直線状に変化する特性を帯びている点に着目し、除湿シミュレーションを考案しました。このシミュレーションを用いてハドロンホール除湿も定量化することが可能になりました。

田中氏はつくばキャンパスのニュートリノ施設だけではなく、様々な施設にハドロンホール方式を適用し、全ての施設において一定以上の湿度低下を実現し、安全で快適な実験環境を提供しました。つくばのニュートリノ施設では空調設備調整の効果により年間800万円の電気代を削減することにも貢献しました。

今回の受賞に際し、田中氏は「2010年に除湿結果が出てから実証するまでに相当時間がかかった。換気量、除湿量を出すことに非常に苦労したが、より説得力のある根拠を出すことができた。これまでを振り返ってみると、諦めず続けていくことが大事だと感じた。また、いろいろな方と議論して答えを導き出していくことも重要だと感じた。今後は、安全グループのテーマである『安全で快適な実験環境作り』に引き続き取り組むとともに、『人と地球環境に優しい』実験施設を目指していく」とコメントしました。

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