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素核研E-sysの宮原正也氏ら、中性子検出システムの集積回路開発で最優秀ポスター賞

集積回路の技術育成や人材交流を目的として、電子情報通信学会・集積回路研究専門委員会(ICD)が主催する「LSIとシステムのワークショップ2023」が5月9日~10日の2日間、東京大学武田ホールにて開催されました。

26回目となる今回は「データセンターを革新するLSIとシステム」をメインテーマに掲げ、巨大なデータセンターシステムおよびそれらを支える多様な半導体技術に着目し、講演やパネルディスカッションが行われました。同期間中にポスターセッションも実施され、今回はKEK素粒子原子核研究所・エレクトロニクスシステムグループ(E-sys)の宮原正也氏らが発表した「スケーラブルな高耐放射線中性子検出システム用ASICの開発」に最優秀ポスター賞が贈られました。ポスターの内容は、3年前に立ち上がったプロジェクト「遮蔽(遮へい)不要な臨界近接監視システム用 ダイヤモンド中性子検出器の要素技術開発( 研究代表機関:高エネルギー加速器研究機構)」の結果をまとめたものです。

(参考)遮蔽不要な臨界近接監視システム⽤ ダイヤモンド中性⼦検出器の要素技術開発
https://www.kenkyu.jp/nuclear/result/r04/document/r4_appl_image07.pdf

 

原子炉用中性子検出器の開発

この研究開発は文部科学省から移行して、日本原子力研究開発機構(JAEA)が実施する「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」のサポートを受けて行われたもので、福島廃炉を加速させるため未臨界モニターの重要な要素である、中性子検出器の要素技術を確立するというものです。詳細は以下の動画をご覧ください。https://www.youtube.com/watch?v=dYAlUYNQOKo

このプロジェクトは北海道大学、名古屋大学、九州大学、産業総合研究所、JAEAとの共同研究によって行われました。原子炉の中の環境は過酷で、ガンマ線のバックグラウンドの中から中性子信号を検出する必要がありますが、炉内は重量制限が厳しく、そのような検出器は存在していませんでした。中性子検出器に求められる性能は、高ガンマ線の環境で1秒間に数カウントの感度を持つことと、かつ、ガンマ線の遮へいを減らし軽量であることです。そこで、本プロジェクトでは耐放射線性能を有するダイヤモンド検出器と中性子変換層を用いて中性子を検出し、検出器の信号処理する高耐放射線集積回路の開発に取り組みました。目標の中性子感度を満たすためには数千チャンネルのダイヤモンド検出器を実装し信号処理を行う必要があります。宮原氏らE-sysグループが取り組んだのが、「信号処理・データ転送用集積回路」の開発です。

炉内環境に柔軟に対応可能なシステム設計

宮原氏らは、センサーから出る信号を読み出し、容易にモニター可能なシステム設計に取り組みました。今回開発する中性子検出器はシステムの要求する性能に応じて最大4096個まで個数が変わります。また中性子検出器に構成されるモジュールの形も炉内のどこに組み込まれるかによって異なるため、大きさや数の変動にフレキシブルに対応できるシステム設計が必要でした。そのため、宮原氏らはダイヤモンドセンサーで検出された中性子のアナログ信号処理、デジタル信号への変換、デジタルデータ転送など機能の異なる6種類の集積回路の設計を行いました。

通常、集積回路は目的に応じて一から作るため、一つの集積回路の開発には数年かかる事が珍しくありません。今回は3年間という限られた期間で6種類の集積回路を作りあげたうえでシステムの動作検証を終える必要があり、一度の失敗も許されない状況でした。幸い、どの集積回路も1回で動作確認ができたので、プロジェクト期間内に成果を出すことができました。今回開発したデータ転送用の集積回路は物理実験への応用も進められています。

今回のワークショップでは、LSIとシステムに関連する最新アイディアから実チップ動作報告を含むポスターセッションが実施され、64件のポスター発表が行われました。その中で参加者からの投票数が1番多かった宮原氏らのポスターが最優秀ポスター賞に選ばれました。受賞に対して宮原氏は「物理実験に用いられる測定器開発で培われた集積回路およびシステム設計技術が福島原発の廃炉事業という社会課題の解決に役立てることができることを示せてよかったと思います。この研究には多くの研究機関とたくさんのスタッフの協力のもと、システム開発まで到達できました。その成果の一部をワークショップでポスター発表し、最優秀ポスター賞を頂くことができ、関係者の皆さまに感謝申し上げます」とコメントしました。

 

今後は実機を作るためにデバイスに搭載するダイヤモンド検出器を、大量に品質よく生産することが課題です。宮原氏らは、集積回路で残された課題として、4096個の中性子検出器の回路性能にばらつきがある中でも全てのチャンネルから正確に信号を捉えられるように、自動で回路の性能を補正できる仕組みづくりに取り組む予定です。

素粒子原子核研究所 エレクトロニクスシステムグループ(E-sys)

新たな現象や非常にまれな現象を捉えることを目標とする世界最先端の研究において、センサーや信号処理システムなどの装置は世界に一つしかないため自分自身で開発しなくてはなりません。エレクトロニクスシステムグループ(E-sys)では、このような世界に一つだけの実験装置のセンサーからシステムに至るまでを各実験グループと連携して開発し、それらをOpen-It (オープンソースコンソーシアム)※を通して知と技術の共有を行っています。

※Open-Itとは
オープンソースコンソーシアムとは、計測システム開発に必要な要素技術、システム化技術およびその情報をできる限りアカデミック用途にオープン化し共有を図ることで、先端計測技術の維持、改良および発展を共同で行おうとする団体です。(https://openit.kek.jp/

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