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素核研ワークショップ「素粒子物理の今と未来」開催後記

12月21日から23日 の3日間、「素粒子物理の今と未来」と題するワークショップがKEKで行われました。

素粒子標準模型は、物質を構成する素粒子の性質を記述する理論ですが、宇宙の成り立ちや暗黒物質の性質、ヒッグス粒子による対称性の破れのメカニズム、フレーバー構造の起源などに満足な回答を与えていません。現在、日本の素粒子物理学分野は国内外で大小さまざまのプロジェクトを推進し、物理の基本法則を解明することに挑戦しています。

素粒子物理学の流れを俯瞰(ふかん)し、それぞれの実験や理論研究を行う研究者が、現在の学術上の立ち位置を認識しながら、そこを起点とした数十年単位の未来展望を語ることで、この学問分野が進むべき将来を共に考えることを目的として、本ワークショップを企画しました。

グループ代表としての成果報告・未来展望ではなく、各自の「主観」を語ってもらう

各実験・理論を最先端でけん引している21名の若手研究者に、「素粒子物理の今と未来」を語ってもらうこと、自分のプロジェクトの展望だけでなく、分野の未来や、他分野とのシナジー(相乗効果)を含めた学問の展開をスコープ(視野)に入れて話してもらうということを依頼して登壇してもらいました。この研究会では、さらに世話人から、

・グループ代表としての成果報告・未来展望ではなく、各自の「主観」を語ってもらう

という依頼をしています。大きな実験になればなるほど、実験結果についての講演はグループ全体の成果を手堅く、効率よくまとめて話すスタイルになりがちです。高度な技術の集約である素粒子実験のデータは、自然の本質を追求する上で重要なもので、正確さが求められるため、コンファレンスの講演には、厳しいチェックも入ります。一方で、実際に実験に参加している研究者が何を大事に思って研究しているか、というハートの部分は語られる機会は少なくなります。このワークショップでは、特にこのハートの部分を大事にしようと決めました。

登壇者21名はこの依頼をそれぞれに咀嚼して、自分の周囲半径1メートルの世界から宇宙サイズの話まで、各自の主観を語ってくれました。セッション中、ブレイク中の様子を観察していると、登壇者が主観を語ることによってメッセージに大きな熱量が入り、それを聞いた人も、自然に何かを語りたくなって議論が活性化するという良い連鎖が生まれたようです。自分の関与する実験プロジェクト、素粒子物理という学問、分野の将来を、各人の主観で語るということの当たり前の重要さを再認識した、という声も多く聞かれました。素粒子実験を推進する際にはリーダーシップの重要性が語られますが、ボトムアップで拓ける未来があるならば、その種は、今回のワークショップの中に埋まっているでしょう。育て、実らせるための良い一歩目となるワークショップとなりました。

研究会には239名の参加登録があり、事後のアンケートには、84名の方が回答してくれました。ほとんどの方が参加に満足し、今後も同様のワークショップに参加したいと回答しています。たくさんの思いが自由記述欄に書き込まれていました。また、数年後に楽しく語り合いましょう!

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