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総研大修了生、森崇人さん「井上研究奨励賞」受賞

総合研究大学院大学(総研大)・高エネルギー加速器科学研究科 素粒子原子核専攻を昨年修了した森 崇人(もり たかと)氏(現所属:京都大学基礎物理学研究所)が第40回井上研究奨励賞を受賞し、2月2日(金)に都内で贈呈式が行われました。井上研究奨励賞は、若手研究者に対する奨励・支援を目的に井上科学振興財団が制定した賞で、理学、医学、薬学、工学、農学などの分野で優れた博士論文を提出した若手研究者に贈られるものです。今回は、森氏の博士論文「量子多体系、場の理論、ホログラフィー原理におけるエンタングルメント構造」の高い質が評価されました。

 

総研大では、理論センター磯 暁(いそ さとし)教授のもと、どのような研究活動をされていましたか?

(森さん)総研大では、場の理論における量子もつれの定式化の研究を行っていました。量子もつれは量子コンピュータから時空創発まで幅広い分野で重要な概念ですが、場の理論のような無限自由度では限られた場合しか定式化ができていませんでした。磯先生のもとでは、相互作用かつ質量があるような場の理論に対しての量子もつれ(特にエンタングルメントエントロピーと呼ばれるもの)の一般公式の開発を行いました。

また、研究所外でも共同研究を多く行いました。京都大学基礎物理学研究所の高柳 匡(たかやなぎ ただし)氏らとの共同研究では、境界が、ある特殊な場の理論である「境界共形場理論(BCFT)」と一次元高い時空(AdS)の対応関係であるAdS/BCFT対応において、励起(真空に比べて粒子のように局在したエネルギーを持つ状態)がある場合の定式化を行い、量子もつれの計算を行いました。AdS/BCFT対応はブレーンと呼ばれる膜を時空の終端にもち、この上に我々の宇宙と似たような時空を作ることもできます(ブレーンワールド)。したがって、励起でさらに時間依存性を入れることで、時間発展する我々の宇宙と量子もつれの関係について迫ることができると期待されます。

他には、東北大の松枝 宏明(まつえだ ひろあき)氏らと共にテンソルネットワークと呼ばれる量子多体波動関数の幾何学的な表現方法と、量子もつれ蒸留と呼ばれる情報操作の関係を明らかにしました。MERAと呼ばれる、ある特殊なテンソルネットワークは上で述べたような場の理論から時空創発を議論できるAdS/CFT対応のトイ模型として知られていますが、今回の解析はより一般のテンソルネットワークに当てはまるもので、より一般的な時空の創発を操作論的な観点から理解しうる点で興味深いものだと考えています。

 

総研大を選んだ理由は?

(森さん)選んだ理由はいくつかあります。

・総研大では、5年一貫制のため、研究に集中できること
・研究所で研究を行うため、学生数に対して教員の数が多く手厚いサポートが受けられること
・宇宙から量子基礎論まで様々な分野の研究者がいること
・いろいろな教員や学生に話を聞きやすい、オープンな環境
・リサーチ・アシスタントになることで研究所での活動に貢献でき、さらに経済的支援を受けられること

 

現在の活動を教えてください。また、今後、どのような研究をしていきたいですか?

(森さん)京大では、AdS/BCFT対応のBCFT側からの構成方法を議論していました。現在は、学振ポスドク研究員(日本学術振興会特別研究員) のまま、カナダのPerimeter研究所に主となる研究場所を移しました。今は量子重力の操作論的、特に量子測定に関係した側面の理解を深めようとしています。2023年夏には在学中から現在の研究所の吉田紅さんと研究していた量子情報(ある量子暗号に関わるタスクの実行するときの条件)からブレーンワールドの因果律を調べた論文を出版しました。

今後は実際に量子コンピュータでのシミュレーションを念頭においた模型構築や、低次元重力の古典重力を超えた領域の情報論・操作論的な理解を推し進めていけたらと考えています。

 

今回の受賞について

今回は、第40回井上研究奨励賞という大変名誉ある賞を受賞するということで、深く感謝申し上げます。この賞は、優れた博士論文に対して贈られるということですので、総研大での学びと、在学中に受けた多大なる指導のおかげだと思っています。特に、指導教員である磯さんのもとでは、研究への取り組み方や方向性について学ぶことができました。また、共同研究者である酒井さん、学外でご指導いただいた宇賀神さん、高柳さん、松枝さん、吉田さんを含む多くの方々へも、この場を借りて御礼申し上げます。今後も慢心することなく、楽しく研究を続けたいと思います。ありがとうございました。

( https://www.soken.ac.jp/news/2023/20231219.html より引用)

今回受賞した自身の論文について、「自分の研究の深さ・広さだけでなく、分野のレビューも丁寧に行ったので、今後本分野を目指す人にも薦められる出来になっていると思います」と述べました。

今後の活躍を応援しています!

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