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七夕講演会「宇宙のなぞを解き明かせ!~ダークマターって何だろう」を開催しました
2024年7月18日
6月30日、七夕講演会2024「宇宙のなぞを解き明かせ!~ダークマターって何だろう~」を開催しました。本講演会はKEKと公益財団法人つくば科学万博記念財団(つくばエキスポセンター)が毎年開催しているイベントで、全国同時七夕講演会に登録されています。
今回の七夕講演会では、素粒子原子核研究所(素核研)理論センターの松原 隆彦(まつばら たかひこ)教授と素核研および量子場計測システム国際拠点WPI-QUPの長谷川 雅也(はせがわ まさや)准教授の2名による講演が午前と午後の2回行われました。エキスポセンターの会場には、あわせて約70名の方が参加しました。親子連れの姿も多数見られました。
私たちはダークマターがなければ生まれなかった
最初に、松原教授が「私たちはダークマターがなければ生まれなかった」というタイトルで講演を行いました。私たちの目に見えず、感じることもできず、一見して私たちには何の関係もないように思われているダークマターですが、実は私たちの存在に決定的な役割を果たしています。松原教授は、銀河のデータを解析し可視化した動画を使って、宇宙に銀河がどのように分布しているのか、宇宙の構造について紹介しました。さらに、これまでの宇宙論の研究から、目で見えるものが宇宙の全てではない、ということをどうやって知ることができたのか、地球を含む太陽系と天の川銀河系を例に挙げて説明しました。
太陽系は天の川銀河系の端に存在しており、銀河系の中心に向かって引っ張られながらその周りを回っています。しかし、銀河系の中心に存在する星の数だけでは太陽系が銀河系の外に飛び出さないほどの重力にはなりません。さまざまな銀河系の分析の結果、銀河系の中心には球状星団と呼ばれる古い星の集団が球状に集まっていて、さらにその周りを球状星団の何倍ものダークマターが取り巻いていることが分かりました。また、重力レンズでも、ダークマターの分布が明らかになり、銀河が集まっているところにダークマターが広がっていることが観測されています。
私たちが知っている普通の物質は重力で集めようとしても押し返されて元に戻ってしまう性質がありますが、ダークマターがたくさん集まると、普通の物質もその重力により引っ張られ、星や銀河などが形成され、今の宇宙が作られたと考えられています。逆に、もしダークマターがなければ、宇宙には星も銀河も作られず、地球もできず、私たちは生まれていません。このように、銀河の5倍以上存在するダークマターが宇宙の中で主要な役割を果たし、私たちの存在にも深く関わっています。しかし、その正体はまだ分かっていません。「知れば知るほど宇宙の謎は深まります」と伝えて、松原教授は講演を締めくくりました。
冷たいセンサーでダークマターの正体を暴く!
松原教授の講演に続いて、長谷川准教授が「冷たいセンサーでダークマターの正体を暴く!」というタイトルで講演しました。長谷川准教授は、ダークマターは存在するとの松原教授の話を振り返りながら、ダークマターがなかったら、銀河の公転速度が変わらないことを説明できない、と話しました。天の川銀河の回転速度は外側に行くほど遅くなるはずですが、どこまで行ってもその速さは変わりません。何か重さを持った見えない物質が銀河中に広く散らばって存在していなければ、この現象を説明できません。長谷川准教授は、ダークマターの候補として未知の粒子から巨大な天体まで候補がたくさんあることを説明し、KEKでは特に未知の粒子に焦点を当てて研究していると伝えました。また、探索方法として3つのアプローチについても紹介しました。
- 粒子同士を衝突させてダークマターを実験室で作る方法
- ダークマター同士が衝突して生じた粒子を探索する方法
- ダークマターが粒子にぶつかり、粒子が弾かれることを観測する方法
世界中でこのようなアプローチで実験が行われていますが、ダークマターは未だ見つかっていません。長谷川准教授は、ダークマターは質量が非常に小さいため、これまでのアプローチでは見つからなかった可能性があると伝え、冷たいセンサー(超伝導センサー)を使った新たなアプローチについて説明しました。超伝導が低温で電気抵抗がなくなる性質を利用して、超高感度な熱量計を実現します。
また、絶対零度に近いマイナス273.1度まで冷えると熱雑音が気にならなくなり、ダークマターが粒子にぶつかって発するわずかな熱をとらえることができます。マイナス273.1度まで冷やすための装置が希釈冷凍機です。ヘリウム-3をヘリウム-4に溶かしたときの希釈熱を利用して、ほぼ絶対零度まで冷やすことができます。
現在KEKのQUP施設には、ダークマター探索専用の希釈冷凍機があります。QUPでは今年度から、この希釈冷凍機を岐阜県にある神岡鉱山の地下1000メートルに設置し、世界最高感度でダークマターを探索する「神岡ダークマター計画」を始める予定です。長谷川准教授は「軽いダークマターを捉える冷たいセンサーに注目してほしい」と伝え、講演を終えました。
参加した子供たちから、宇宙には果てがあるのか、地球上にもダークマターはあるのか、などたくさんの質問が寄せられました。
全国同時七夕講演会とは、七夕の前後の期間に全国各地の科学館や研究機関などで天文・宇宙関連の講演会を行う、日本天文学会主催のイベントです。
https://www.asj.or.jp/tanabata/2024/about.html