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野尻美保子教授が、第24回素粒子メダルを受賞しました

素粒子原子核研究所 理論センターの野尻美保子(のじりみほこ)教授が、久野純治教授(名古屋大学)、松本重貴教授(東京大学)とともに、日本物理学会素粒子論グループ素粒子論委員会から第24回素粒子メダルを授与されました。

素粒子論グループは素粒子物理学、原子核物理学、および関連する分野の発展を目的とする理論研究者の集まりで、素粒子メダルは「素粒子論およびその周辺分野で挙げられた顕著な業績を顕彰し、次世代のさらなる独創的研究が生み出されることを目的として、これに貢献した研究者に授与する」ものです。

[受賞論文]

野尻美保子氏・久野純治氏・松本重貴氏

「宇宙暗黒物質の対消滅におけるしきい値共鳴効果の発見」

Hisano, S. Matsumoto, and M. M. Nojiri, Phys. Rev. D 67, 075014 (2003).
Hisano, S. Matsumoto, and M. M. Nojiri, Phys. Rev. Lett. 92, 031303 (2004).

[受賞理由]

[解説]

暗黒物質は宇宙に存在する物質密度の大半を占め、現在の宇宙の構造を作る上で非常に重要な役割を果たしたと考えられています。この粒子の性質を明らかにするために、理論分野では、暗黒物質がある理論を提案し、その反応を理論的に計算して観測や実験と比較することでその性質に迫ろうとします。この際に、

  1. 宇宙初期に他の素粒子の反応から、暗黒物質が生まれたり、暗黒物質同士が衝突して他の素粒子に変わったりする反応
  2. 現在の宇宙で暗黒物質同士がぶつかって、他の粒子を作り出す対消滅反応
  3. 暗黒物質が他の粒子と衝突することで、測定器に信号を残す反応

の理論的な計算が重要になります。

(1)の反応は現在の宇宙にある暗黒物質の量を、(2)の反応は暗黒物質の衝突から作られた光や反粒子を探す「間接探索」の信号量を予想するのに重要です。現在最も進展している暗黒物質の探索実験は10トン近くある巨大な測定器で、暗黒物質と粒子の衝突した時に出る信号を探す「直接探索」(例: LZ 実験 https://en.wikipedia.org/wiki/LZ_experiment (英文))で、近年では暗黒物質と粒子の衝突確率(3)に厳しい制限がつくようになりました。通常は(1)~(3)の3つの反応は比例関係にあり、測定器で探索することが難しい粒子は間接探索も難しいのですが、受賞論文はこの関係を突き崩す理論的な発見をしたことで、世界的に知られています。

 

受賞論文は、超対称模型におけるヒグシーノ(Higgsino)やウィーノ(Wino)といった暗黒物質候補においては、ゲージ粒子の交換によって暗黒物質ペアが電荷を持った粒子のペアに相互に入れ替わる反応を多数起こすことによって、対消滅確率が4桁以上大きくなることを示したものです。この論文で指摘されている効果は、のちにゾンマーフェルト効果と呼ばれるようになり、余剰次元模型などの他の暗黒物質候補においても極めて重要であることが明らかになりました。

ヒグシーノやウィーノ暗黒物質については直接探索、間接探索、そして加速器での探索でようやく手が届きかけているところであり、それ以外の暗黒物質候補でも、ゾンマーフェルト効果を無視してデータを解釈することはできないと考えられています。受賞論文や関連論文には500以上引用されているものが複数あります。

[受賞のコメント]

この論文の研究を始める以前、超対称模型で予言される暗黒物質の宇宙初期における生成や、実験的探索に関わる理論研究を中心的に行っていました。ヒグシーノやウィーノについては、通常の暗黒物質の摂動計算をすると、確率解釈を破る不自然な挙動を示すことを知っており、この問題の解決することを目的として共同研究を始めました。問題を解消する方法もぼんやりとは予想していて、研究を始めたころ、電話で当時東京大学宇宙線研究所におられた久野先生に、「摂動的ユニタリティが破れている時は、全部の寄与を足せばいい」とか「フェルミオンが束縛状態を作る有効理論を作ればいい」とか、適当なことを言ったのを記憶しています。この計算は理論的にも技術的にも難しく、子育て期間中だったこともあり、中心となる計算手法は久野先生、松本先生が開発され、大きな貢献ができなかったことを多少残念に思っています。暗黒物質の研究には宇宙に存在する暗黒物質を直接、間接探索する以外に、加速器を使って暗黒物質を直接生成する方法もあり、この両面から研究を続けていきたいと思っています。

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