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理論センターの向田享平助教がAAPPS C.N. Yang賞を受賞

素粒子原子核研究所理論センター向田 享平(むかいだ きょうへい)助教が、初期宇宙の極限状態における素粒子の理解を深める先駆的な貢献を行ったとして、第13回C.N. Yang賞を受賞しました。本賞は、アジア太平洋物理学会連合(AAPPS)初代会長でノーベル物理学賞受賞者の Chen Ning Yang博士の功績を称え設立された賞で、顕著な業績を挙げた若手研究者を奨励し、アジア太平洋地域の物理学を担う次世代のリーダーを表彰することを目的としています。


 

さまざまな宇宙観測によって、宇宙は少なくとも100億度以上の熱い火の玉から始まり、約138億年前の誕生以降ずっと膨張して現在の温度(摂氏マイナス270度)になったことが明らかになりました。このような描像はビッグバンと呼ばれています。一方で、宇宙の構造を説明するためには、ビッグバン以前にインフレーションという加速膨張の期間が必要であると考えられています。観測から宇宙にはほとんど特別な方向がないことが分かっているため、インフレーションはスピンを持たないスカラー場(インフラトン場)によって引き起こされたと考えられます。

インフレーションによって、物質は極限まで薄められます。したがって、インフレーション後にビッグバン宇宙の初めである熱い火の玉宇宙を作る必要があり,その過程を再加熱と呼びます。現在の宇宙に存在する物質、すなわち、クォークで作られる陽子、中性子などの核子、電子など、さらに現在の素粒子論・宇宙論の大きな謎である暗黒物質は、すべてインフレーション後に作られたと考える必要があります。向田助教の、再加熱過程と物質起源への影響に関する研究が高く評価され受賞につながりました。

再加熱を起こすためには、インフラトン場と標準模型粒子との間に相互作用が必要ですが、十分なインフレーションを継続して起こす条件から小さな相互作用が比較的自然です。向田助教はこのような状況での再加熱を考察し,宇宙の最高温度が従来考えられていた値より、1/10 から1/100000 ほども小さくなることを指摘しました。

また、向田助教は、欧州合同原子核研究機関(CERN)のLHC実験で発見されたヒッグス粒子がインフラトンの働きをする、ヒッグスインフレーション模型についても検討しました。ヒッグス場に重力との特殊な相互作用(非最小重力結合)を加えることで宇宙観測と整合するのですが,向田助教はこの非最小重力結合がインフレーション後の予再加熱 (preheating) 過程において理論的内部矛盾を引き起こすことを指摘しました。

 

受賞のコメント

この度、C.N. Yang賞を頂けることを非常に光栄に思います。この場を借りて、いつも議論につきあってくれる共同研究者の皆さま、そして気長にサポートしてくれる家族に感謝いたします。

受賞に至ったどの論文も同僚からの思いがけない質問やとりとめのない雑談から始まって好奇心の赴くままにやっていたもので、これらの研究をやっていた頃はこのような形で評価いただけるとは思いもよりませんでした。特に、「再加熱における熱化過程」に関する論文は当時同級生だった張ケ谷氏(現シカゴ大学助教)と学生だけで行った研究で感慨深いです。

今後もこういった研究の機会をつかめるように、そして学生が私から独立して行う研究を後押しできるように、日々精進していきます。

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受賞論文

再加熱における熱化過程
K. Harigaya and K. Mukaida, “Thermalization after/during Reheating,” JHEP 05 (2014), 006.

非最小重力結合における爆発的な予再加熱
Y. Ema, R. Jinno, K. Mukaida and K. Nakayama, “Violent Preheating in Inflation with Nonminimal Coupling,” JCAP 02 (2017), 045.

暗黒物質残存量とクォーコニウム輸送に対する非可換電場相関関数の次点までの寄与
T. Binder, K. Mukaida, B. Scheihing-Hitschfeld and X. Yao, “Non-Abelian electric field correlator at NLO for dark matter relic abundance and quarkonium transport, ” JHEP 01 (2022), 137.

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