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おとなのサイエンスカフェ第10夜「宇宙一小さなコマで時間反転対称性の破れにせまる」を開催しました
2025年1月17日
12月6日(金)、おとなのサイエンスカフェ第10夜「宇宙一小さなコマで時間反転対称性の破れにせまる」をつくばセンタービル co-enで開催しました。
KEK素粒子原子核研究所(素核研)では、素粒子、原子核という極微な世界から広大な宇宙まで、理論および実験の両面からの研究を行っており、この世で最も小さい素粒子を研究することでこの世で最も大きい宇宙の謎の解明に挑み続けています。
10回目を迎えた今回のサイエンスカフェでは、茨城大学の准教授で素核研客員准教授の飯沼 裕美(いいぬま ひろみ)さんが話し手となり、宇宙最小の磁石である素粒子のスピンの性質を使った、時の流れの反転対称性の破れを捉える実験について紹介しました。
スピンは素粒子が持つ基本的な性質の一つで、磁石の性質を示し、方向情報を持ちます。例えば、炭素原子の電子が安定して配置されるのはスピンが逆向きで対を成すという規則(パウリの排他律)によるもので、これにより炭素その他の原子が安定し、私たちの身体も成り立っています。
飯沼さんは時間反転対称性についても詳しく解説しました。宇宙初期には物質と反物質が同量存在したと考えられますが、現在反物質はほとんど存在しません。この原因の一つが「CP対称性の破れ」と考えられており、時間反転対称性の破れとしても説明されます。物理学では時間は方程式の変数の一つで、電荷(C)、空間(P)、時間(T)の入れ替えにより区別されない「CPT定理」が成り立ちます。B中間子崩壊でのCP対称性の破れは小林・益川理論で予言され、Belle実験で実証されました。CPT定理により、CP対称性の破れは時間反転対称性の破れをも伴うはずで、飯沼さんはスピンの性質を活用した実験でその検証に取り組んでいます。ミューオンg-2/EDM実験と呼ばれるこの実験は、茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設J-PARCを舞台に、2028年の稼働を目指しています。最後に、参加者から実験への意気込みについて聞かれ、自身が取り組む、世界一小さい蓄積リング達成に向けた熱意を語り、サイエンスカフェを締めくくりました。
▼当日の様子は素核研YouTubeのアーカイブ動画からご覧いただけます▼
次回のおとなのサイエンスカフェ
おとなのサイエンスカフェは金曜日の夜、大人の特権である美味しいお酒やおつまみを楽しみながら、極微なサイエンスの話を楽しんでもらうことを趣旨に企画したもので、シリーズで開催しています。
次回は、2月7日(金)に東京都杉並区にあるIMAGINUS(イマジナス)で行います。
おとなのサイエンスカフェ第11夜「巨大な加速器でせまる物質と宇宙の成り立ち」
「物質は何からできているのか?宇宙誕生直後の世界はどんなものだったのか?」
これらの謎を解き明かすために、高エネルギー加速器を使って、誕生したばかりの宇宙を支配していた素粒子とその現象を創り出し、直接観測する実験が行われています。今回は、スイス・ジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機関(CERN)で行う、世界最高の衝突エネルギーを誇る「LHC(大型ハドロン衝突型加速器)」を使った実験でどのような研究が行われているかご紹介します。迫力ある映像を交えながら、その最先端の研究内容を分かりやすくお伝えします。
そのほか、研究への情熱や日常のひとコマ、さらにはこれからの夢まで、普段なかなか聞けない研究者の「素」にせまるトークもお届けします。
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