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企画展示「素粒子原子核物理学の軌跡—隠された宇宙の謎に迫る—」~大型パネル 「ひと」の力強さ、美しさを表現

1月14日から文部科学省 東館2階エントランスにて、高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所の企画展示「素粒子原子核物理学の軌跡―隠された宇宙の謎に迫る―」が始まりました。

 

素粒子原子核物理学は、物質の究極的な構造と自然界の力の本質を研究する学問です。1897年の電子発見から、理論と実験が連携しあって未知の領域を探求し、素粒子や宇宙の謎に迫る道を切り開いてきました。今回の展示では、幅5メートル、高さ2メートルの大型パネルの一面に、素粒子原子核物理学の歩みを年表で紹介しています。その裏側の、建物外部から見える面には、「究極への探究」と題し、未だ解明されていない宇宙や素粒子の謎を「ひと」が探り、その先を見据えようとする姿をイメージした絵画を掲げています。これらのデザインは女子美術大学デザイン・工芸学科4年の栗田 央(くりた みお)さんに手がけてもらいました。制作への想いなど、栗田さんから話を聞きました 。

―女子美術大学ではどのようなことを学んできましたか?

栗田さん デザイン・工芸学科のヴィジュアルデザインを専攻しました。ここでは、多様化する時代に応じ、的確で新しいヴィジュアルコミュニケーションの可能性を探求します。授業では、アナログやデジタルにかかわらずな様々な表現で、見えないものをどのように演出するかを学んできました。先生からは自由にやりなさいといわれ、逆にルールがないことに難しさを感じ悩むことが多かったのですが、誰も見たことのないヴィジョンを創り出すにあたり、自分の中で何か感じるものが生まれたら、それを貫いていけばいいと考えるようになりました。そこに面白いと反応する人がいて、自分の作品によって一つの新しい見え方が広がっていくことを信じて制作活動を行ってきました。

 

―制作にあたり、まず、理論センターの松原隆彦教授から宇宙の成り立ちや未だ解明されていない謎について話を聞いてもらいました。どのような印象を持ちましたか?

栗田さん 子供と宇宙ってとても近い存在だと思います。私の身近にも宇宙に関する図鑑があり、宇宙に対して想像を膨らませてワクワクするような感覚がありました。ところが年を重ねるにつれて、目の前のことに精一杯になってしまって、宇宙に想いを馳せることはなくなってしまいました。そんな中、KEK素粒子原子核研究所を訪問し、宇宙を身近に置いてずっと考えている人がいることに、まず強く心を動かされました。宇宙を研究するといっても、一生涯で進められることには限りがあります。それでも時代を超えてこの壮大な分野の発展に情熱を捧げ続ける姿勢は、普通の感覚ではとても貫いていけないことで、スケールの大きさに圧倒されました。

 

―外側の「究極への探究」のデザインについて。こちらからは宇宙や素粒子に関する問いを掲示したいとだけ伝えていましたが、とても鮮やかでインパクトのあるデザインになりました。どのような想いでデザインしたのでしょうか?

栗田さん 宇宙と聞いて、まず思い浮かんだのは、広大な宇宙を照らす星々の「光」でした。色彩のグラデーションは可視光線の色の分布からインスピレーションを受け、赤から青へと変化する美しさに、宇宙が持つ神秘や多様性を表現しました。そして、松原教授から研究の話を聞いて、何よりも「ひと」の強さを感じたので、宇宙に関する様々な謎を探り、その先を見据えようとする姿を描いています。その顔には表情を乗せないようにし、見る側がいかようにも自由に想像できるようにしました。

 

―近くて遠い存在である宇宙に向けて、これからも研究を続けていく「ひと」の意思を感じました。それが、年表の方で、多くの研究者達によって未知の領域を探求し、宇宙の謎に迫る道を切り開いていくことに繋がっているように見えます。

栗田さん そう見えていたら嬉しいです。過去から未来へと続く年号のラインに色彩のグラデーションを重ねて、両面の一体感を演出しました。「究極への探究」は色彩に重きをおいて、年表は膨大な情報をいかに分かりやすく印象深く伝えるかを考えるにあたり、私は「線」にこだわりました。情報をつなぐ役割を果たすのも「線」であり、遠目から見れば文字そのものも「線」の集まりです。これらの「線」を美しく、調和の取れた形で配置することで、全体の見やすさを保ちながらも、一つひとつの出来事が際立つように工夫しました。

最後に、栗田さんからのメッセージです。

生活をしていると私たちがどういった場所で今を生きているのか、忘れていることが多い。
ふとした時に宇宙がやってきて、自分の周りが現実離れした何も責任のない空間になる。少し気持ちが楽になる。私にとって宇宙はそれくらいの距離感だと思う。
今回デザインのお仕事の話をいただいた時に、研究所にお邪魔して宇宙と向き合うことを役割としている方々の姿を初めて肉眼で見た。
お話をうかがう機会もいただけ、1番印象に残ったのは、今までずっと続いてきたこと、そしてこれからも続いていくということを再確認したことだった。
ただそこにある宇宙を人が人として探究していくことが誇るべきことであり、何より強く、美しいことをしていると思った。
繋がっていくこと、さらに真実に近づき、ひらけていくこと。
オレンジからライトブルーのグラデーションで発光したイメージをベースに表現した。
人が宇宙を探求しようとする力強さ、美しさ、壮大さが他の人にも伝わって欲しいと思っている。

栗田央 女子美術大学 デザイン・工芸学科

 

企画展は2月13日(木)まで文科省エントランスにてご覧いただけます。文科省へお立ち寄りの際はぜひご覧ください。

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