ニュース

おとなのサイエンスカフェ第12夜「未知の物質世界へ―ハイパー核で探る中性子星の正体」を開催しました

3月7日(金)、おとなのサイエンスカフェ第12夜「未知の物質世界へ―ハイパー核で探る中性子星の正体」をつくばセンタービル co-enで開催しました。

 

KEK素粒子原子核研究所(素核研)では、素粒子、原子核という極微な世界から広大な宇宙まで、理論および実験の両面からの研究を行っており、この世で最も小さい素粒子を研究することでこの世で最も大きい宇宙の謎の解明に挑み続けています。

 


今回のサイエンスカフェでは、東北大学大学院理学研究科の三輪 浩司(みわ こうじ)教授(素核研特別教授)が話し手となり、「私たちの宇宙を形作る物質の最終形態はどういうものなのか」「中性子星の内部では何が起きているのか」について詳しく解説しました。

 

はじめに、自然界の仕組みについて説明し、宇宙の物質はさまざまな階層を作り安定な状態を作り上げてきたことを話しました。私たちの身近な物質はすべて原子でできており、その原子は陽子と中性子からなる原子核とその周りを取り巻く電子で構成されています。
ここで三輪教授は、「では、電子が存在せず、原子核だけで構成された物質はあると思いますか?」と参加者に問いかけました。電子が陽子と同じ数だけ存在することで原子は中性化され、分子や結晶も電気的にバランスが取れたものになっています。私たちは原子や分子の中の電子が示す性質を利用して現代社会を営んでいます。もし電子のない物質で世界が作られていたら全く異なった世界になっていたはずで、そんな物質は身近には存在しないように思えます。ところが、宇宙には電子が存在しない極限状態の物質が実際に存在しており、それが「中性子星」であると三輪教授は説明しました。

さらに、私たちの物質を作る陽子や中性子以外の粒子で構成される物質はあるのかという問いを投げかけました。陽子と中性子は6種類あるクォークのうち、最も質量が軽いアップクォーク、ダウンクォークで構成されています。この2種類のクォークが組み合わさることで、私たちが知っている通常の物質が形作られています。しかし、物質はそれだけではなく、もっと重いクォークを含む粒子も存在します。例えば、ストレンジクォークを含む粒子は「ハイペロン」と呼ばれます。このような粒子は地上では非常に不安定で、すぐに崩壊してしまいますが、電子が存在しない高密度な物質である中性子星の中心部では、安定して存在する可能性があると三輪教授は述べ、中性子星の成り立ちとその中心部の物質層を詳しく解説しました。

三輪教授は、宇宙の進化の過程でクォークがどのように宇宙の多様な物質世界を作り上げてきたのかを解明するため、物質の元である原子核を形作る力をクォークから理解する研究を、東海村にある大強度陽子加速器施設J-PARCで行っています。J-PARCのハドロン実験施設では、大強度の中間子ビームを使って、ハイペロンやハイパー核を大量に作成することができます。これらのデータを積み重ねることで、極限密度を持つ巨大な原子核である中性子星の正体にせまることができると期待して研究を進めていると述べました。

最後に、三輪教授はハイペロンパズルという大問題についても紹介しました。中性子星の中心部では、中性子がエネルギーを安定させるためハイペロンに変化すると考えられています。ハイペロンが出現すると星の内部の圧力が下がり、あまりに重い中性子星は重力で潰れてしまうはずで、中性子星の質量の上限は太陽質量の1.4倍程度と考えられてきました。ところが、2010年に太陽の2倍の質量を持つ重い中性子星が観測され、現在のハイパー核の知識だけでは説明がつかない矛盾が生じています。ハイペロンが出現しても、重い中性子星を支えるメカニズムは何なのか?一方、もしハイペロンが出現しない場合には、その出現を妨げるメカニズムは何か?こうした課題を解決するための研究を今まさに進めようとしているところだと三輪教授は述べて、サイエンスカフェを締めくくりました。

 

参加者からは、「ストレンジクォークだけでなく、チャームクォークを含む粒子はあるのか」「中性子星はどのくらい存在し、いつ明らかになったのか」など質問が寄せられました。

当日の様子は素核研YouTubeにアーカイブ動画を公開する予定です。

素核研チャンネル – YouTube


 

おとなのサイエンスカフェは金曜日の夜、大人の特権である美味しいお酒やおつまみを楽しみながら、極微なサイエンスの話を楽しんでもらうことを趣旨に企画したもので、今後もシリーズで開催する予定です。詳細が決まりましたら素核研webサイトやSNSでお知らせします。

素核研 Xhttps://twitter.com/kek_ipns

素核研Facebookhttps://www.facebook.com/KEK.IPNS/

関連リンク

ページの先頭へ