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おとなのサイエンスカフェ第15夜「宇宙を支配する黒幕、ダークエネルギーとは?」を開催しました

10月31日(金)、おとなのサイエンスカフェ第15夜「宇宙を支配する黒幕、ダークエネルギーとは?」を未来をつくる杉並サイエンスラボ―IMAGINUS(イマジナス)で開催しました。

 

KEK素粒子原子核研究所(素核研)では、素粒子、原子核という極微な世界から広大な宇宙まで、理論および実験の両面からの研究を行っており、この世で最も小さい素粒子を研究することでこの世で最も大きい宇宙の謎の解明に挑み続けています。

 


今回のサイエンスカフェでは、素核研理論センターの松原 隆彦(まつばら たかひこ)教授が、「宇宙膨張のしくみ」や「真空の量子エネルギー」そして「ダークエネルギーが示す宇宙の未来像」についてわかりやすく解説しました。参加者は、宇宙がこの先どうなるのか、3つのシナリオから予想を立てるなど、宇宙の未来を考えながら、科学を「感じる」時間を楽しみました。

 

松原教授は、最初に宇宙の構成成分について説明しました。私たちが理解しているのは全体のわずか約5%で、残りの大半は、ダークマター(約26%)とダークエネルギー(約69%)です。この5%の中身もほとんどが銀河間ガスで、私たちの地球のような「星」はわずか0.3%だといいます。宇宙の大部分を占めるダークエネルギーが現在の宇宙膨張を速めていると考えられていますが、その正体は未だに謎に包まれています。

アインシュタインと宇宙膨張

宇宙膨張の仕組みを説明する中で、松原教授はアインシュタイン方程式を紹介しました。この方程式は、宇宙の時空の状態は物質の状態によって決まることを示す基本式です。この基本式によって宇宙が自然に膨張もしくは収縮することが導かれますが、当時のアインシュタインは静的な宇宙を信じており、膨張や収縮を防ぐために式に「宇宙項」(後の宇宙定数)を加えました。その後、ルメートルやハッブルによって宇宙が実際に膨張していることが発見され、宇宙項は不要とされました。しかし、宇宙項がないとその膨張は減速していくはずなのですが、近年の観測で現在の宇宙は加速的に膨張していることが分かり、宇宙定数が再び注目を集めます。これが後に「ダークエネルギー」と呼ばれるものです。

宇宙定数は単なる定数か

松原教授は、宇宙定数が単に方程式に与えられた定数というのは不自然だと指摘しました。宇宙定数の値は物理的に極めて小さく、しかも宇宙定数は宇宙が膨張してもエネルギー密度が一定で薄まることがない、つまり、真空のエネルギーともいえると説明しました。量子の世界では、何もないと思われる空間でも電磁波が生まれたり消えたりしており、真空にはエネルギーがあると考えられています。松原教授はその例として「カシミール効果 」を紹介しました。金属板を2枚、少しだけ間をあけて向かい合わせに置くと、そのすき間では存在できる電磁波の波長が制限されます。一方、外側には制限がないため、外から押す力がわずかに大きくなり、板同士が引き合う現象が観測されます。これがカシミール効果です。

ダークエネルギーの正体は?

では、この真空の量子エネルギーが宇宙定数、すなわちダークエネルギーでしょうか?松原教授は、素朴に計算すると観測値の10123倍も大きな値になってしまい、とても宇宙定数の存在を説明できないといいます。ダークエネルギーについては、真空のエネルギー説以外にも仮説があります。松原教授は、未知の粒子が宇宙の加速膨張を引き起こしているという「スカラー粒子説」や、アインシュタインの重力理論そのものが宇宙のスケールでは完全ではなく、修正が必要だとする「修正重力理論説」について紹介しました。

ダークエネルギーが示す宇宙の未来

松原教授は、ダークエネルギーがどのような性質を持つかによって宇宙の未来が決まると言い、以下の3つのシナリオを、動画を用いて紹介しました。

  1. 永遠に加速する
    膨張が続くと物質はどんどん薄まり、遠くの銀河は次々と見えなくなります。最終的には、すべてが希薄化して静かで冷たい真っ暗な空間がただ広がるだけの状態になると考えられています。
  2. 収縮に転じて崩壊する
    ダークエネルギーが引き寄せる力に変わる場合、膨張は止まり、宇宙は縮み始め、最終的にすべてが一か所へ押しつぶされる結末になると考えられています。
  3. 急激な膨張ですべて分解する
    もしダークエネルギーが急速に強まるタイプなら、膨張が暴走し、銀河から原子まであらゆる構造が引き裂かれてしまう可能性があります。

参加者は、これらのシナリオのほか「どれでもない」という選択肢も含めて、挙手で未来の宇宙を予想しました。会場では[1]が多かったようですが、皆さんはどう考えますか?

最後に松原教授は、「いつか宇宙をコンセプトにしたカフェ経営をしたい」という夢を語りサイエンスカフェを締めくくりました。

開催日が10月31日のハロウィンということもあり、参加者にはIMAGINUS特製「ダークなおつまみ」が振る舞われました。参加者からは「あたたかい雰囲気、美味しいゴハン、科学の話がこんなふうに楽しめてとても良かったです」という感想も寄せられました。

当日の様子は素核研のYouTubeチャンネルでアーカイブ動画として公開する予定です。素核研のYouTubeチャンネルをぜひ登録してください。

素核研YouTubeチャンネル

 


 

おとなのサイエンスカフェは金曜日の夜、大人の特権である美味しいお酒やおつまみを楽しみながら、極微なサイエンスの話を楽しんでもらうことを趣旨に企画したもので、今後もシリーズで開催する予定です。

次回は、12月26日(金)につくばセンタービルco-enにて行います。

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▼詳細、参加お申し込みはこちらから▼
https://otona-sciencecafe-16.peatix.com/

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