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おとなのサイエンスカフェ第18夜「宇宙の始まり~インフレーションの証拠を掴みたい」を開催しました
2026年3月23日
3月13日(金)、つくばセンタービル co-enにて、おとなのサイエンスカフェ第18夜「宇宙の始まり~インフレーションの証拠を掴みたい」を開催しました。
KEK素粒子原子核研究所(素核研)では、素粒子、原子核という極微な世界から広大な宇宙まで、理論および実験の両面からの研究を行っており、この世で最も小さい素粒子を研究することでこの世で最も大きい宇宙の謎の解明に挑み続けています。
現在の宇宙は、約138億年前、ビッグバンに先立つ急速な膨張「インフレーション」から始まったと考えられています。もし宇宙誕生直後にインフレーションが起きていれば、その痕跡が宇宙最古の光である宇宙マイクロ波背景放射(CMB)に刻まれているはずです。その決定的な証拠を探るため、世界各地で観測が行われています。
今回は、素核研CMBグループの長谷川 雅也(はせがわ まさや)准教授が、宇宙最初の瞬間に迫る観測の最前線の研究について解説しました。
ノーベル賞研究との関係
はじめに長谷川准教授は、2025年のノーベル物理学賞で話題となった “巨視的な”トンネル効果について解説しました。これは量子力学が生み出す不思議な現象の一つで、こうした量子の性質を利用した超伝導検出器を使ってインフレーションの痕跡を掴もうとしていると説明しました。さらに、2017年のノーベル物理学賞の対象となった「LIGOによる重力波の初検出」にも触れ、重力波が宇宙誕生の瞬間を探る研究にも重要な手がかりを与えることを紹介しました。
宇宙の始まりの調べ方
遠くを見ることは、宇宙の過去をのぞくことです。たとえば太陽は8分前、アンドロメダ銀河は約230万年前の姿を、私たちは今見ています。観測を極限まで進めると、ビッグバン直後の宇宙マイクロ波背景放射(CMB)にたどり着きます。
インフレーションが実際に起きていたとすれば、このCMBの表面には、真空ゆらぎに由来する“しわ”(温度むら)が残っているはずです。さらに原始重力波による渦巻き状の偏光の模様(Bモード)が現れれば、それがインフレーションの決定的な証拠になります。では、どのようにCMBを測るのでしょうか。CMBの信号は非常に弱いため、まずその光を検出器で吸収し、わずかな温度変化として受け取ります。この温度変化は電流の変化として現れます。さらに、ごく微小な電流の変化を磁場の変化としてとらえ、超伝導が示す量子現象を利用して、1ミリボルト程度の大きな電気信号に変換することで、CMBの信号を読み取ることができます。
このような微細な信号をとらえるため、長谷川准教授は、空気が乾燥して薄く、宇宙からのCMBがほとんど弱められずに届く南米チリ・アタカマ高地に設置された望遠鏡を用いる国際共同観測プロジェクト「Simons Observatory(サイモンズ天文台)」に参加しています。日米欧から400人以上の研究者が参加する、CMB観測としては最大規模の実験プロジェクトです。
世界最先端の宇宙観測装置SAT
Simons Observatoryでは、小口径望遠鏡(SAT)と大口径望遠鏡(LAT)が用いられています。日本チームは、SATの方に力を入れています。複数台あるSATそれぞれに、超伝導技術を用いた1万個以上の素子からなるセンサー(TES:Transition Edge Sensor)を搭載することで、原始重力波によるBモード偏光のデータを、従来よりもはるかに効率よく取得できるようになり、より感度の高い観測が可能になったと長谷川准教授は述べました。SATの技術にはKEKで培われた加速器の技術も使われています。また、外部からの熱放射を遮るためのフィルターはKEKで開発されました。
長谷川准教授は、日本チームが最前線で活躍している望遠鏡でインフレーションの証拠を最初に発見したいと語り、サイエンスカフェを締めくくりました。
当日の様子は素核研YouTubeにアーカイブ動画を公開する予定です。
おとなのサイエンスカフェは金曜日の夜、大人の特権である美味しいお酒やおつまみを楽しみながら、極微なサイエンスの話を楽しんでもらうことを趣旨に企画したもので、今後もシリーズで開催する予定です。詳細が決まりましたら素核研webサイトやSNSでお知らせします。
素核研 X:https://twitter.com/kek_ipns
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