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【特集】ミューオンでまだ見ぬ宇宙の謎を解け! ミューオン g-2/EDM実験グループの挑戦 (第2回)
2019年6月12日
ミューオンを用いてg-2(異常磁気能率)とEDM(電気双極子能率)の値を精密に測定し、標準理論を超える新物理の兆候を捉える事を目指す、ミューオンg-2/EDM実験グループの佐藤 優太郎 KEK素粒子原子核研究所研究員にお話を聞く特集の第2回目です。今回は、現在開発中の陽電子飛跡検出器に関してお話を伺います。
−佐藤さんが開発している陽電子飛跡検出器について教えてください。
●佐藤研究員 陽電子飛跡検出器の主要部分はセンサーと読み出し回路から構成されています。粒子が通過するとセンサーに電気信号が起こり、その信号が読み出し回路に届くという仕組みになっています。
実は、今回開発している検出器はシリコンストリップ検出器としては、日本の素粒子実験史上初の純国産の検出器なんですよ。国内の企業やKEK内の他のグループと提携しながら製作しました。読み出し回路を含めた検出器の設計を自分達で1から行うのはなかなか珍しいです。
―なぜ自分達で1から作り上げようと思ったのでしょうか。
●佐藤研究員 J-PARCの加速器に合わせたものを作る必要があったからです。加えて、ミューオンが陽電子に崩壊する寿命を正確に調べるためには、時間周期の安定性が重要になります。この周期の安定性を図るために性能を良くしたいという理由もありました。
―開発の中で苦労した点も多かったのではないでしょうか。
●佐藤研究員 そうですね。先程もお話ししたように、この陽電子飛跡検出器では時間の安定性が重要になります。そのために応答の早い読み出し回路が必要となります。私は特に読み出し回路の開発・試験を担当していますが、センサーからの信号を読み出し回路で安定して処理するためには読み出し回路に安定した電力を供給することが重要です。それを実現するために、読み出し回路を載せる読み出し基板に何度も改良を加えて、安定して読み出し回路を動作させることができるようになりました。
検出器に搭載できる大きさには制限があるため、必要な部品を高い密度で配置する必要もありました。センサー、読み出し回路などの部品はワイヤーボンディングという技術を用いて、直径25マイクロメートルの細いアルミワイヤーで繋ぎます。接続する信号によっては1 つの失敗で全く動作しなくなってしまうので、何千本というアルミワイヤーを確実に繋ぐ必要があります。ワイヤーボンディングの失敗を無くすために、ワイヤーボンディングの工程に関するパラメータの最適化を行うことで、今ではほぼ失敗なくボンディングできるようになりました。
設計し、製造して、その性能評価を積み重ねましたが、ようやく1 枚のセンサーの信号を読み出す検出器の形となり、安定して動作できるようになりました。製作した試作機はJ-PARCで行われているMuSEUM実験という、g-2の理論値を導出するために必要となる物理量(ミューオンと陽子の磁気能率比)を精密測定するための実験に試験投入し、物理成果の測定にも成功しています。試行錯誤の連続でしたが、やっと1つのマイルストーンが達成できました。
―検出器の試作機完成まで長い道のりだったのですね。それでは最後に今後の計画を教えてください。
●佐藤研究員 1枚の検出器として完成しましたが、これはあくまで1 枚のセンサーに信号を読み出すための試作機ですので、センサー1枚の現状の構造ではまだ本番のg-2/EDM実験には使えません。次のステップでは、センサーを2×2に並べた構造を検討します。今のままではセンサーと回路が重なってしまうので、さらに回路を小型化する必要があります。
4枚のセンサーと回路を繋いだ1枚の板は「クォーターベーン(1/4ベーン)」と呼ばれています(図1参照)。この「クォーターベーン」を4枚合わせて「ベーン」と呼ばれる板を構成するのですが、陽電子飛跡検出器は40枚の「ベーン」が放射状に繋がってできています。現在はクォーターベーンの製作方法を確立すべくKEKの機械工学センターと一緒に構造設計を進めています。製作方法が確立できたら1~2年でクォーターベーンを量産します。検出器全体としては2021-2022年の完成が目標です。ミューオンg-2/EDM実験設備全体では今後4年程度での完成を目指して研究開発を頑張っています。
ここまで、KEK内の様々なグループだけでなく、九州大学を始めKEK外の研究所や企業など色々な方の協力があって進んできました。ようやく検出器の最終形が見えてきましたので、これからは検出器を完成させ、早くミューオンg-2/EDM実験を始めたいです。
―実験開始まで待ち遠しいですね。佐藤さん、ありがとうございました。
第1回の記事はこちら
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