今月13日に合体したARICH検出器と前方電磁カロリーメータをクレーンで吊り上げ、BelleⅡ測定器本体前に移動させる作業が9月20日、KEK筑波実験棟で行われました。およそ4時間に及んだ作業は無事成功し、今冬に予定されるQCS(ビーム衝突点用超伝導磁石)の再挿入や、SuperKEKB加速器の第二段階運転に向けての準備が順調に進むものと期待されます。
吊り上げられたのは、π中間子とK中間子を区別する切り札として期待されるARICH検出器と、電子や光子が持つエネルギーを測定する前方電磁カロリーメータを一体化させたもので、直径約2.5メートル、厚さ約50センチ、重さは約8トンで、地下4階のフロアに置かれていました。
これらはBelleⅡ測定器の”前方エンドキャップ”として機能する予定のものですが、BelleⅡはすでに今春、SuperKEKB加速器の電子、陽電子の衝突点にロールインされており、設置のためには天井からクレーンで吊り上げ、高さ10メートルのコンクリート製の遮蔽体を越え、30メートルほどの距離を運搬する必要がありました。また、衝突点の両側にはQCSが設置されており、従来の吊り治具では前方エンドキャップを取り付ける際にぶつかってしまうため、治具の形状を変更し、慎重な操作によって設置する必要がありました。
この日は早朝から作業員と研究者ら約20人が、一体化した検出器に吊り上げ用の治具を取り付ける作業を行い、午前11時ごろに70トンクレーンによる吊り上げを開始。治具と合わせて重さ約10トンという検出器は、高さ10メートルほどまで吊り上げられ、少しずつ、ゆっくりと、コンクリート製の遮蔽体を20~30cmのクリアランスでまたぎ越し、BelleⅡ測定器の直前で90度回転。専用の引き出し装置にボルトで固定されました。
検出器のクレーンによる吊り上げが始まると、連絡を受けたKEK職員ら約30人が地下1階の見学者用通路に集まり、「頑張って」「あともう少し」などと声を挙げながら、作業の様子を見守っていました。
作業を担当した足立一郎准教授は「あれほど重いものを、BelleⅡ測定器をロールインした後で運搬するのは初めてで、うまくいってよかったです」とホッとした様子ながらも、「運んだ装置の信号確認や、衝突点に最初に入れるバックグラウンドを測定するための装置のインストールなど細々とした作業があり、休んでもいられません」と話しました。
BelleⅡ実験のプロジェクトマネージャーを務める後田裕教授も「想定の範囲で作業が順調に進み、大きなマイルストーンを越えることができました。年末に予定されるQCSの再挿入など、実験開始に向けて準備を進めていきます」と話しました。