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スーパーKEKB加速器の衝突点にロールインされたBelleⅡ測定器/<i class='fa fa-copyright' aria-hidden='true'></i> KEK IPNS

スーパーKEKB加速器の衝突点にロールインされたBelleⅡ測定器/ KEK IPNS

真夏の炎天下、KEKつくばキャンパスの北にある筑波実験棟のエレベータを地下4階まで降りると、騒々しい機械音とともに巨大な装置が現れました。高さ、奥行き、幅がそれぞれ約8メートル、重さが約1400トンもあるというBelleⅡ測定器です。パワーアップされた周長3キロの粒子加速器「スーパーKEKB」の衝突点にロールインされ、2018年2月からスタートする衝突実験の準備が着々と進んでいます。  

Belle測定器は、B中間子と反B中間子の壊れ方の違い(CP対称性の破れ)を検証し、小林誠・益川敏英両博士の2008年ノーベル物理学賞受賞を導くなど多くの成果を出し、11年間に及ぶ運転を2010年に停止して以来、グレードアップのための工事が続けられてきました。  

KEKB加速器をグレードアップ、衝突の頻度を40倍に

KEKB加速器は、KEKつくばキャンパスに建設された周回約3キロの粒子加速器のことで、電子と陽電子を衝突させることで大量のB中間子を生成するため、「Bファクトリー」とも呼ばれてきました。SuperKEKB加速器は、このKEKB加速器を大幅に改造したもので、衝突点のビームの広がりを20分の1に減らし、さらにビーム電流を2倍に増やすことで、加速器の性能の重要な指標であるルミノシティ(衝突を起こす頻度)を40倍に増やすことを目指し、2016年2月から試験運転が始まりした。  

改良されたBelleⅡ測定器は、このSuperKEKB加速器の衝突点の周りを覆う、大きな八角柱の箱です。箱の中は幾段もの仕掛けがあり、電子、陽電子の衝突で生まれたB中間子の崩壊で生じるπ中間子、K中間子、電子、ミュー粒子、光子などの種別を判定し、それらが飛び出した跡を検出し、運動量やエネルギーを測定します。  

測定器について、詳しくはこちらを御覧ください。  

粒子の検出精度を大幅に向上させたBelleⅡ測定器

最も内径の中心部にある「崩壊点位置検出器」は、PXD(ビクセル検出器)とSVD(シリコンバーテックス検出器)という2種類の半導体センサーで構成されており、Belle測定器では直径3センチだったビームパイプを、BelleⅡ測定器では直径2センチに細くし、衝突点のより近くに高精度のセンサーを設置することで、粒子が崩壊する位置の測定精度を格段に向上させました。

研究者自身の手で組み立てられるARICHカウンター/KEK IPNS

研究者自身の手で組み立てられるARICHカウンター/KEK IPNS

  

さらに、外側には、TOPカウンター(伝搬時間検出器)、ARICHカウンター(エアロゲル・リングイメージ型チェレンコフ検出器)という2つの「粒子識別装置」を採用。これらの装置は研究者自らが組み立てを行い、8月中旬にはARICHIカウンターの組み立て作業がついに完了しました。二つの装置により、これまでは識別が容易でなかったK中間子とπ中間子について、π中間子の検出確率を97%まで向上させ、双方を見間違える確率を5分の1に抑えることができるといいます。

標準理論とのずれ、新しい物理の発見につながる可能性

これらの改良のメリットについて、BelleⅡ実験のプロジェクトマネージャーを務める後田裕教授は「加速器の性能が40倍になると、観測したくない粒子まで測定器にかかってしまう頻度も増えるため、測定器を構成している素子を細分化し、時間的・空間的により微細に測定できるように工夫しました」と話します。さらに、「K中間子とπ中間子を効率よく区別できれば、新しい物理の発見につながる可能性があります。2005年に発見されたB中間子がγ線を放出し、ρ中間子(すぐにπ+中間子、π-中間子に崩壊)に崩壊するモードは頻度が低く、同じくγ線を出しながら、K+中間子に崩壊するケースにまぎれてしまう傾向がありました。この崩壊には新物理の寄与が起こり得るので、これをより効率よく集め、標準理論とずれがあるか確かめることが可能になります」と解説しています。

BelleⅡ測定器を使った取り組みは、日本や欧米を初めとする世界24カ国、約750人の研究者の共同で行われ、これまで測定器の設計や組み立て、試験、調整など多岐にわたる準備が行われてきました。データ収集後のオンライン・データ処理についても、KEKの計算科学センターを中心に世界中の協力研究機関・大学の計算機システムをネットワークで結び、今後の物理解析を支えます。

24カ国、750人の研究者がタッグを組んで取り組む

素核研Belleグループの責任者である堺井義秀教授は「CERN(欧州原子核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)でヒッグス粒子が見つかり、素粒子の振る舞いを記述する素粒子物理学の基本理論である標準理論が完結しました。大きくアップグレードしたBelleⅡ測定器による実験の目的は、標準理論で説明がつかない新しい物理の探索です。大量に作られるB中間子などの崩壊をより詳細に調べることで、超対称性粒子など新しい粒子の発見につながる手がかりを見つけることです」と話しています。

Belle実験では、米スタンフォード大学・SLAC(国立加速器研究所)のBaBar実験が同時進行で行われ、2001年にはB中間子におけるCP対称性の破れを同時に発表するなど、し烈な競争が繰り広げられました。今回のBelleⅡ実験でも、CERNのLHC内に設置されたLHCb実験が同様の崩壊モードに照準をあわせて研究しており、よきライバル関係です。

もう一つのフロンティア、新しい物理のフレーバー構造を解明へ

標準理論を超える新しい物理の研究は現在、①高エネルギーフロンティア実験によって新粒子を生成し、その性質を調べることと、②高ルミノシティフロンティア実験により新しい物理のフレーバー構造(素粒子の世代や種類)を明らかにすることの、相補的なアプローチが必要とされています。前者の代表格は、世界最高エネルギーの13TeVを誇り、2012年にヒッグス粒子を発見して話題となったCERNのLHC、後者の代表格は停止から7年余りが経過した現在もルミノシティの世界記録を保持するKEKB/スーパーKEKBであり、今後の取り組みが注目されています。

B中間子、標準理論、超対称性理論などの言葉については、こちらのリンクをご参考に。 


【Belle実験を巡るこれまでの主な成果と今後の予定】


関連リンク


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新物理を探る Belle Ⅱ実験