2020年1月24日につくば国際会議場にて行われたSATテクノロジーショーケース2020にて、COMET実験グループの牧村俊助 技師がベスト新分野開拓賞を受賞しました。さらに、つくば発注目研究ポスターで発表したクライオジェニックスグループの川井正徳 専門技師へ感謝状が授与されました。賞状と感謝状はSATテクノロジーショーケースを主催しているつくばサイエンス・アカデミーの会長・江崎玲於奈 氏より授与されました。
SATテクノロジーショーケースは、多岐に渡る分野の研究者によるポスター発表などを通じた異文化交流を目的とした研究会で、2002年から毎年開催されています。
牧村技師は、「再結晶脆化しない超耐熱高靭性タングステン」の研究開発を発表しました。茨城県東海村の大強度陽子加速器施設 J-PARC におけるCOMET実験は、ミューオンという素粒子が100兆回に1回という稀な確率で電子のみに変化する従来の理論では起こりえない現象の発見を目指し、準備を進めています。COMET実験では、陽子ビームを標的に衝突させて、ミューオンの生成に必要なパイ中間子を生成しますが、タングステンを標的材に使用すると、効率的にミューオンを生成できることが分かっています。一方で、タングステンには陽子の衝突によって温度が上昇すると脆くなり、壊れてしまう再結晶脆化という技術的な課題がありました。牧村技師は、それらの課題を解決し、高温で再結晶脆化せず壊れにくいタングステンの研究開発を国際協力、国内協力、産学連携で進めています。
川井専門技師は、「Belle II実験におけるVertex検出器用二酸化炭素冷却装置の開発と運用」というタイトルで、Belle II測定器の最内層にある検出器を二酸化炭素で効率よく冷却するための冷却装置「IBBelle」の概要、設計条件(要求性能)、設置、運用状況等について発表しました。Belle II実験は、KEKつくばキャンパスにあるSuperKEKB加速器とBelle II測定器を用いて新しい物理現象の発見などを目指す国際共同実験です。IBBelleはドイツMPP (Max-Planck-Institut für Physik)の研究者と共同で開発し、運用を行っています。低物質量で効率良く冷却することが可能で、今後の実験装置への応用も期待できる装置です。
受賞に際し、牧村技師は「受賞にあたりましては、素核研、COMET collaboration、J-PARACハドロンセクション、金属技研、サンリック、ユメックスとの産学連携、愛媛大学、核融合研、CERNやRaDIATE連携体制との国際・国内協力、前所属であるKEK物構研によるご支援、ご指導に対して、加えて、献身的なサポートをしてくれる家族に、深く感謝申し上げます。本タングステン合金はCOMET第二期計画を始めとした大強度陽子加速器標的への採用を目指しております。今後とも、みなさまのご支援、ご指導をお願いいたします。」と周囲への感謝の声を聞かせてくれました。
また、川井専門技師は「SATテクノロジー・ショーケースでは、IBBelleとSuperKEKB/BelleⅡ実験について、高校生から他研究者・メーカー関係と幅広い年代・他分野の方にも知っていただくことができて、よい機会であったと感じています。」と当日を振り返った上で、「IBBelleはBelle II測定器の不可欠な構成要素として、Belle II実験の遂行に貢献していると思っています。装置が外国製という事で異常時の対応や修理・メンテナンス等大変なところもありますが、今後続く実験において故障なく安定した運転が続けられるように運用をしていきたいと考えております。」とBelle II実験とIBBelleの安定した運用に向けた意気込みを聞かせてくれました。