2020年4月、KEK理論センターのセンター長が初代の磯 暁 教授から橋本 省二 教授へ交代しました。理論センターは日本最大の素粒子原子核の研究機関で、素粒子、原子核、宇宙物理学などの理論研究を推進しています。始まりは1971年、高エネルギー物理学研究所(KEK)の理論部門として誕生し、東京大学原子核研究所の理論部門との合併などを経て、2015年に理論センターが正式に発足しました。2016年からは 6つの理論センター・プロジェクトが立ち上がり、様々な分野の研究者が分野の垣根を超えて日々共に研究に取り組んでいます。SuperKEKB加速器を用いたBelle II実験や、大強度陽子加速器施設(J-PARC)での実験など多くの実験プロジェクトがKEKで進行中であることを活かし、理論センターは実験グループとも綿密に連携を取っています。理論と実験の研究者が同じ場所で互いに手を取り研究する環境は理論センターの大きな特徴です。
理論センターの役割は大きく分けて3つあります。それは、1. 世界最先端の研究をすること、2. 大学共同利用機関法人として、理論センターをハブとして研究を広めること、3. 若手研究者や学生が将来世界中で活躍する力を蓄えるための場所であることです。理論センター最大の特色は、若手研究者や学生が多数在籍している事です。若手研究者・学生それぞれ30名前後が毎年理論センターに在籍し、その後世界の様々な場所で活躍しています。全国で活躍している素粒子原子核理論分野の大学教員の多くは若い時期に一度は理論センターに在籍した研究者です。今年度も38名の研究員と21名の学生が在籍しており(2020年4月現在)、日々活発に研究が行われています。「理論センターは世界へのゲートウェイです」と磯教授は表現しました。
多様な研究者が集まる場所で研究活動がより活性化されるよう、理論センターでは毎年様々な研究会を実施しています。現在はCOVID-19の影響で残念ながら会場に人を集める形での研究会は実施できませんが、KEK内部ではwebシステムを用いたセミナーを実験的に始めました。「現状が長引かないように願っていますが、もし長引いてしまうなら、この形式で外部とも研究会ができればと考えています」と橋本教授は今後の研究会も柔軟に対応するための考えを聞かせてくれました。
従来の活動に加え、2019年4月から新たな共同利用プログラム「素粒子原子核宇宙シミュレーションプログラム」が始まりました。同年3月より稼働を開始したKEKスーパーコンピュータシステムを利用し、素粒子・宇宙・原子核物理学分野の大規模数値シミュレーションに基づく理論的研究の推進を目的としています。同時に本プロジェクトは、文部科学省が進めているスーパーコンピュータ「富岳」プロジェクトのような大規模シミュレーション研究のための準備研究としての側面も持っています。研究課題の公募は随時応募を受け付けています。詳細はこちら(素粒子原子核宇宙シミュレーションプログラム 利用申請)をご覧下さい。
初代センター長の磯教授と新センター長の橋本教授にお話を伺いました。
磯教授 「KEK理論センターが発足してから、ここを異分野でも互いの課題に一緒に取り組める場所にしたいと常に考えてきました。現在は素粒子物理学だけでもテーマが細分化されており、世界には他分野の研究者が共に研究するのが難しい環境も多い中、理論センターでは素粒子、原子核、宇宙、数値物理の理論研究者、さらには実験系の研究者が同じキャンパスに属し、理論センター内で合同のセミナーを実施するなどの活動をしています。これは他には無い理論センターの大きな特徴の1つです。さらにKEKでは物質構造科学研究所で物性分野の研究も行われています。昔から物性分野の研究者ともセミナーや研究会を実施しており、3年前からは様々な方の協力の下、KEK連携コロキウムという形で素粒子と物性物理学を合わせた講演会を定期開催しています。素粒子理論の大本は物性物理学とは密接な関係があるので、KEK連携コロキウムなどを通じて若手研究者に物性理論の基本概念と最先端の進展に触れてもらいたいと考えています。
これまで、広いところから新しいものが生まれてくるという考えを重視してきましたし、それはこれからも必要になってくるでしょう。私はKEKという実験研究施設の中で弦理論や場の理論など数学に近い内容を扱ってきましたが、橋本先生は実験に密接に関わる数値物理の研究をしていますので、実験と理論との繋がりを保ちつつ、理論センターの大切な特色を継承していただけると期待しています。」
橋本教授 「KEKの理論部門と呼んでいた時代から、小林 誠 特別栄誉教授(2008年ノーベル物理学賞受賞)や菅原 寛孝 名誉教授など国内の理論物理学トップの研究者がいらっしゃり、その周りには若手研究者が集まり活発に研究する雰囲気が続いてきたので、その伝統を大切にしたいです。実験研究は大型の装置を作り年月を要する大規模なプロジェクトに取り組むこともある一方で、理論研究は実験のその先のことを考えつつ新しい研究を柔軟に行うのが役割です。あっと驚くような新しい研究をここ、理論センターから出したいと考えています。そのためには、若い皆さんの力が必要です。KEK理論センターではここで学びたい大学院生を歓迎しています。今年はCOVID-19の影響で直接の研究訪問が難しくなっていますが、少しでも興味のある方はメールをいただければメールやweb会議システム等を用いて喜んで説明します。」
KEK理論センターへの大学院進学(総合研究大学院大学 高エネルギー加速器科学研究科 素粒子原子核専攻)に関するお問い合わせは興味のある教員のメールアドレス(理論センタースタッフ一覧)までどうぞ。
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