ILC物理測定器グループが2022年1月の活動報告を行いました。ILC計画は、全長約20kmの線型加速器で電子と陽電子を衝突エネルギー250 GeVまで加速し、正面衝突させ、物質に質量を与える粒子であるヒッグス粒子を大量に生成します。そうしてヒッグス粒子と他の素粒子の間にはたらく力の強さ(ヒッグス結合定数)を1%レベルあるいはそれを切る精度で測定するヒッグスファクトリー(ヒッグス工場)実験です。ヒッグス結合の精密測定により、標準理論を超える物理を解明することを目指します。
KEKがホストする国際推進チーム(IDT)は、ILC準備研究所(ILC Pre-Lab)の設置と運営を含む準備期間のプランに関する文書を公表しました。同時に、高エネルギー物理学研究者会議(JAHEP)とKEKは、ILC計画に関する主な課題の解決に向けた取り組みの現状や今後の方策と見通しをまとめた文書を公表しました。また、2021年10月には「ILC Workshop on Potential Experiments (ILCX2021)」がオンライン開催されました。
素核研ILCグループが中核メンバーとして参加するILD(International Large Detector)グループでは、ILC実験の第1期の計画に向けた物理シミュレーション研究や様々な装置開発を進めています。物理シミュレーション研究については総合研究大学院大学(総研大)の学生が先導しており、今回3つの成果が報告されています。一つ目として、250 GeVにおけるe+e-→γH反応のフルシミュレーション研究が完了しました。その結果、当初の予想を超えて標準理論で登場するヒッグス粒子以外の粒子による背景事象が大きく、この反応によって、HL-LHC(CERNの世界最大ハドロン衝突型加速器LHCの高輝度化アップグレード)等で期待される制限を超える結果を得ることは難しいという新たな知見が得られました。二つ目は、e+e-→γZ反応のフルシミュレーション研究結果です。ここから、ビーム偏極非対称度の精度を従来の約一桁向上できる見通しが得られました。三つ目は、e+e-→τ+τ-反応のシミュレーションです。こちらは新たな測定法を現在開発中です。これらの解析に加え、物理検討をより精密に行うために必要となるモンテカルロ(MC)データ生成も順調に進んでおり、2021年夏までに第一段階のデータ生成を完了しました。
この他に、バーテックス検出器 (VTX)や中央飛跡検出器(TPC)、陽電子源などの開発も進んでいます。特に陽電子源開発に関しては、前回の報告以降、陽電子生成のための回転ターゲットの試作2号機の真空回転試験を行いました。その結果、安定して運転可能と実証され、大きな技術課題の一つを解決しました。
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ILCグループ
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