活動報告

2020年12月の活動報告 : 宇宙マイクロ波背景放射(CMB)偏光観測実験グループ

KEK宇宙マイクロ波背景放射(CMB)偏光観測実験グループが2020年12月の活動報告を行いました。

KEK CMBグループでは、誕生から約38万年後の宇宙で発せられたCMBの観測研究を行なっています。熱いビッグバン以前に宇宙が急激な加速膨張を起こしたとするインフレーション期では、重力波が生成された(原始重力波)と考えられています。CMBの偏光パターンの内、Bモードと呼ばれる渦模様が、この原始重力波によって作り出されると考えられています。そのため、CMBのBモード偏光を観測できれば原始重力波、すなわちインフレーションが起きた証拠を捉えるという科学史において最大級の発見となるのです。さらに、インフレーションの背後にある量子重力理論(超弦理論等)を検証することも可能となります。KEK CMBグループでは、CMB のBモード偏光観測達成をライトバード(LiteBIRD)衛星計画と地上観測実験ポーラーベア(POLARBEAR)を中心に目指しています。

 

2020年代での打ち上げを目指すライトバード衛星計画においては、前回の報告(2020年3月)以降、様々な科学的・技術的な進展がありました。例えば、衛星に搭載されるソーラーパネルを改良し、太陽放射を遮断するサンシールドも取り付けたことにより、衛星モデルが太陽から望遠鏡への熱の影響を減少させるものに改善されました。また、ライトバードの研究がきっかけとなった研究成果として、南雄人博士研究員(現・大阪大学)らが発表したプレスリリース(宇宙マイクロ波背景放射の偏光に「パリティ対称性」を破る新しい物理の兆候を観測 -暗黒エネルギーの正体解明の糸口になるか?-)等を紹介しています。

地上観測実験に関しては、現在の宇宙の膨張率(ハッブル定数)の観測結果に関するCMBグループ最新の論文についても報告されています。近年、ハッブル定数と現在に近い宇宙のデータから求めた値との違いが、標準宇宙理論(ΛCDM理論)と呼ばれる、宇宙はビッグバンから始まり暗黒物質と暗黒エネルギーが存在すると考える理論では説明できないとする「ハッブル定数問題」が注目を集めています。そのような中、ポーラーベア-1実験での観測によりハッブル定数問題の統計的優位度が4.3シグマから4.5シグマに増加した事が発表されました。ポーラーベア-1受信機の感度を6倍程度改善し、かつ二つの周波数で同時観測できるポーラーベア-2受信機は、ハッブル定数の観測をさらに改善すると期待されています。2019年初頭に最初の撮影画像(ファーストライト)を得た後、試験観測を続けて来ました。COVID-19の影響で観測サイトでの活動を一時停止していましたが、11月から順次観測再開の準備が進められています。

詳しくはこちらをどうぞ。https://www2.kek.jp/ipns//docs/report/2020/12/202012cmb.pdf

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