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   image タンパク質の構造研究    2003.4.3
 
〜 新しい専用ビームライン 〜
 
KEKの放射光施設を使ったタンパク質の構造研究について、これまで色々と紹介をしてきました。日本の国家プロジェクトとも言えるタンパク3000プロジェクトについてお話しした時にも触れましたが、タンパク質の立体構造は主にX線結晶構造解析によって知ることが出来ます。強くて空間的に絞られた放射光X線は、タンパク質結晶に当てると内部の弱い回折点(反射などX線の進路を変える点)まで精度よく測定するのに最適であるため20年以上も前から利用され続けてきました。近年、生命科学の中でもタンパク質の立体構造を基礎とする科学は盛んになり、世界的に大規模に推進されています。こうした状況の中で、これまでにある放射光施設のビームラインでは大量の結晶の高速測定、微小結晶の測定などの要求に応えることが難しくなってきました。

今日は、このような要求を満たすべくKEK放射光施設の高エネルギー放射光リング(PF-AR:Photon Factory Advanced Ring)に新しく建設された構造生物研究用ビームライン、NW12について紹介しましょう。NW12というビームライン名は、PF−ARの北西(North West)第12セクションにある光源を利用していることに由来しています。このビームラインでは、放射光X線をタンパク質結晶に当てることによって得られる回折データを測定します。得られた回折データをコンピュータで計算することにより、タンパク質の構造を知ることができるのです。高速測定のために、通常の放射光よりも更に強い光を取り出すための挿入光源という装置、および高速に回折データを読み出し可能なCCD検出器を備えています。これにより露光時間とデータの記録時間が大幅に短縮されるため、従来のPFのビームラインでは3時間以上かかっていた測定が20分程度で済むようになりました。

NW12の結晶回転軸は、芯ブレが2.2ミクロン(1ミクロンは千分の1ミリ)以下と非常に高精度であるため、ミクロンほどの大きさの微小結晶も測定可能です。放射光X線を平行化するミラーや、分光結晶を液体窒素(マイナス196℃)で冷却するシステムによりX線は高度に波長がそろえられ、多波長異常分散法を用いた実験を精度良く行うことができます。多波長異常分散法とは、X線の波長を変えた時に回折強度に生じる微小なシグナルの変化を利用して構造の手がかりを得る方法で、波長を自由に変えられる放射光でなくては難しい強力な構造決定法です。その他、10ミリ秒の開閉が可能なX線シャッターや、ビームの出射位置を変化させずに波長を自由に変更可能な分光器など、NW12には最新の技術が取り込まれています。

2月の末に行った試験的な実験で、糖転移酵素というタンパク質の構造が明らかになりました。30ミクロン×30ミクロン×100ミクロン程の大きさの結晶を用いて、わずか20分の測定で2.0オングストローム分解能の回折データを収集できました。構造解析の結果、図3のような立体構造が得られています。

大量の結晶を効率良く次々と測定していくためには、結晶を装置にセットする作業も高速化する必要があります。NW12にはロボット等を導入してこれらの作業を自動化できるコントロールシステムが備わっています。近い将来、ほとんどの工程を自動化することで、構造生物学の研究者に迅速にデータを供給する仕組みを確立できるでしょう。
 
 
付録(文中に出てくる長さの単位)

1ミクロン=
1オングストローム=
0.001ミリメートル
0.0000001ミリメートル

 
 
 
 
 
 
  ※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

  →放射光研究施設のwebページ
  http://pfwww.kek.jp/indexj.html

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[図1]
糖転移酵素の結晶。30ミクロン×30ミクロン×100ミクロン程という小さなものです。
 
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[図2]
糖転移酵素のX線回折写真。星空のような多数の光のスポットのひとつひとつ(黒い点)が、タンパク質の中のそれぞれの原子の位置の情報を持っています。このデータをコンピュータで解析することによって、図3のような立体構造を得ることができます。
 
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[図3]
NW12で解析された糖転移酵素の立体構造
 
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[図4]
PF-ARに新しく完成した構造生物研究用NW12ビームライン。手前と奥に見える「ハッチ」と呼ばれるボックスの中に光学系の装置や測定装置が収納されています。
拡大図(43KB)
 
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[図5]
実験ハッチ内に設置された高速CCD検出器。この検出器によって、図2のような回折データを高速に得ることができるようになりました。
拡大図(32KB)
 
 
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proffice@kek.jp
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