KEKでは毎年夏になると、加速器を停止して、いろいろなメンテナンスの作業を行います。Bファクトリーの今年のメンテナンスは7月2日から始まり、10月15日に実験を再開しました。研究者たちはその間も休み無く、加速器や検出器の改良に取り組んできました。以前にもご紹介した、新型のシリコンバーテックス検出器もこの夏の作業によってBelle測定器に組み込まれ、いよいよ測定を開始しました。今日は、新型検出器の導入によって生まれ変わったBelle測定器の素顔をご紹介しましょう。
新型シリコンバーテックス検出器
Belle測定器は、電子・陽電子衝突直後にできる各種の素粒子を捕まえるための巨大な観測装置で、多様な検出器の組み合わせによってできています(図1)。その検出器のなかで最も衝突点近くに位置するのが、シリコンバーテックス検出器(SVD)です。以前、新型シリコンバーテックス検出器(SVD2)についてはご紹介しましたが、このSVD2のBelle測定器への導入は、Belle測定器改良作業(アップグレード)の締めくくりとなるものです。このアップグレードで、実験のポイントであるB中間子の崩壊位置測定の精度が、20%ほど改善し、また、これまでより多くのB中間子の崩壊を効率良くとらえることができると期待されています。
より広範囲の測定を可能とするために、これまでの検出器(SVD1)と比べると、新型検出器(SVD2)はそのカバーする領域が図2のように広がりました。これにより、今まで取り逃がしていた素粒子も観測できるようになったわけです。
また、大量の実験データを収集するための装置がさらに高速化されました。これにより、データ収集能力は以前の5倍となり、毎秒一千回を越す衝突反応を楽々と処理できるようになりました。
より精密な測定のために、シリコン検出器のセンサ−も3層から4層へと増やされ、素粒子の軌跡を衝突点にさらに近い場所から正確にたどることが可能となりました。もちろん着実にパワーアップしていくKEKB加速器のビームに備えるための、放射線耐性も万全です。
3年の準備期間と3ヵ月の据え付け作業
Bファクトリー実験を進めるかたわら、このSVDのアップグレードのために、6カ国からなる国際チームが、ほぼ3年の歳月を費やしました。今年7月、KEKB加速器が運転を停止すると、いよいよ据え付け作業の始まりです。
まず衝突点を囲むKEKB加速器の装置を分解する作業と旧型のSVD1検出器を撤去する作業が7月中旬まで行われました。その後2ヵ月をかけて新型検出器SVD2の据付・調整が入念にされました(図3,4,5)。装置の最終調整は地上に常時降り注ぐ宇宙線で行われました(図6)。アップグレードされたBelle検出器できれいに宇宙線の軌跡が観測されているのがわかります。測定精度は20ミクロンと、目標を無事達成することができました。
3ヵ月半の長いシャットダウンもおわり、Belle測定器のエンドキャップが閉じられる(図7)と、実験の再開です。10月15日からKEKB加速器の運転も再開されました。加速ユニットの増設などでますますのパワーアップが見込まれます。Belle測定器の性能アップとあわせて秋以降の実験の成果が大いに期待されるところです。Bファクトリー実験では、CPの対称性の破れの精密測定をはじめ、この夏に注目された標準理論では説明できない粒子の存在を示唆する現象など、さらにデータを蓄積することで謎の解明に挑んでいきます。ご期待下さい。
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[図1] |
Belle測定器。衝突点を取り囲むようにして粒子の軌跡やエネルギーを測定する検出器が並んでいます。 |
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[図2] |
Belle測定器で、電子と陽電子の衝突点に一番近い部分に設置されるシリコンバーテックス検出器の断面図。今回、新型 (SVD2:下側) と入れ替えられたことで、粒子を観測できる範囲が広がりました。 |
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[図3] |
新型シリコンバーテックス検出器据付作業は、全世界の大学から実験に参加している学生たちにも支えられました。 |
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[図4] |
シリコンバーテックス検出器(直径約20cm)は中央ドリフトチェンバーの穴の中に設置されます。 |
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[図5] |
シリコンバーテックス検出器の据付。 |
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