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last update:04/09/30  

   image かすかな光をとらえる    2004.9.30
 
        〜 放射光技術の機器開発型プログラム 〜
 
 
  KEKのフォトンファクトリーでは、加速器から生まれる放射光と呼ばれる強い光を使って、タンパク質の構造を調べる研究を行っていることは、これまでにも何度かお伝えしてきました。

これらの研究や応用には、試料から出てくる光を測定する「検出器」が必要不可欠で、より高度な研究を行うにはすぐれた検出器がなくてはなりません。今日は、KEKの研究者と企業の研究者とが手を組んだチームで、新しい検出器、およびその性能を最大限に生かすことのできる高性能放射光ビームラインの開発プロジェクトが始まったお話をします。

物質の構造を解く検出器

フォトンファクトリーの放射光は、目で見ることのできる光、可視光線よりエネルギーが高く、波長が短い、紫外線からエックス線領域の光です。この光は、わたしたちの目で見ることはできませんが、検出器を使って見ることができます。放射光を物質にあて、物質中の電子によって散乱されたり、吸収されたりして出てきたエックス線領域の光を検出器で捉え、光の強さやエネルギー、方向などを解析することによって、物質の原子レベルの姿を見ることができるのです(図1)。

タンパク質の原子レベルの構造を調べるには、タンパク質の分子が規則正しく並んだ「結晶」になっていなくてはなりません。ところが、生物にとって重要なタンパク質の中には、結晶を作るのが難しく、ごく小さな結晶しか作れないものがたくさんあります。

小さい結晶の構造を調べるには、細くしぼられた放射光ビームが必要なことはもちろん、散乱されて出てくるエックス線が非常に弱いので、感度の高い検出器が必要になります。現在、フォトンファクトリーの高性能タンパク質構造解析ビームラインで使われている検出器には、デジカメでおなじみのCCDが使われています。技術開発の結果、大面積の検出器ができ、感度や読み出し時間に関してもかなり良いものができるようになりましたが、数ミクロンといったごく小さな結晶を測定できるようにするには、全く新しい技術の検出器を開発する必要があります。

高感度・高速・高精細のエックス線検出器ができれば、医学診断にもとても役立ちます。弱いエックス線でも鮮明な画像が撮れるのであれば、被ばく量を劇的に減らすことができるからです。

先端技術を駆使した高感度・高精細検出器

新しい検出器には、HARP膜と呼ばれる特殊な膜が使われています。HARPとは、High-gain Avalanche Rushing amorphous Photoconductorの略で、高い電圧をかけたアモルファスセレンの膜です。アバランシェ(avalanche)とは「なだれ」という意味で、HARP膜に光が入ると、光が電荷に変換され、さらに膜の中でなだれのように電荷が増えて行く現象が起こります。したがって、わずかな光でも大きな電流が流れるため、感度よく光を捉えることができます(図2)。

HARP膜を用いたカメラは、NHK放送技術研究所が中心となって開発したもので、今では高感度ハイビジョンカメラとしてすでに実用化されています。CCDを用いたカメラに比べてはるかに感度が高いので、夜間でも照明なしで災害や事故などの現場を撮影したり、照明をあてることのできない夜行性動物や文化財の撮影などに使われています。

HARPカメラは高感度と高精細を両立できるので、次世代のエックス線検出器として有望な技術ですが、実用化するためには大面積化する必要があります。HARP膜中でできた電荷を読み出すための電子源として、従来は電子銃を用いていましたが、外形が大きく、検出器を大面積化する障害となっていました。このため、新しく開発する検出器には、フィールドエミッタアレイ(Field Emitter Array, FEA)という技術が、信号読み出し部として使われることになっています(図3)。この技術を用いたフィールドエミッタディスプレイは、プラズマや液晶ディスプレイに代わる次世代のフラットパネルディスプレイ技術として注目されているものです。

多分野の研究者の混成チームで探る最先端の生命科学

このプロジェクトは、科学技術振興機構(JST)の「先端計測分析技術・機器開発事業」の機器開発型プログラムとして採択された課題のひとつで、KEK構造生物学研究センターの若槻壮市(わかつき・そういち)センター長がプロジェクトリーダーになっています(図4)。現在の科学技術の発展の動向をふまえて、特に重点的に推進する必要がある分野として文部科学省が特定したテーマのひとつ、「生体内・細胞内の生体高分子の高分解能動的解析」領域のプロジェクトです。

検出器の開発にはさまざまな最高水準の技術が取り入れられていることはお話ししました。プロジェクトチームには、HARPカメラの技術を持つNHKエンジニアリングサービス、フィールドエミッタディスプレイの技術を持つ双葉電子、パイオニアといった、企業の研究者が含まれています。

KEKの研究者は、この検出器の特性をフルに生かせるような細くしぼられた光を発生する新しいビームラインや、高精度のタンパク質構造解析装置や医学用イメージング装置などの開発を担当します。新しいビームラインには、ミニポールアンジュレータという光源サイズの非常に小さな光を発生する挿入光源を用い、さらにミラーを使って光を集めることにより、より細くしぼられた光を作ります。また、細くしぼられたビームや小さな結晶を精度良く実験に用いるためには、いろいろ解決していかなければいけない問題があります。高性能放射光ビームラインや装置のお話については、近いうちにこのニュースで詳しく取り上げる予定です。

新しい検出器やビームラインが完成すると、シグナルの小さい生体機能分子や細胞、器官の構造を詳細に、かつ素早く見る事ができるようになります。低線量でも詳細な画像や動画を撮ることができるようになるため、人体への負担の低減や診断の精度の向上にも大きく効果を発揮すると考えられます。遠い将来にはこれらミクロな分子の器官の活動がリアルタイムで見る事ができるようになるかもしれません。


 
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[図1]
タンパク質の立体構造を調べるには、タンパク質の結晶(試料)に放射光をあて、散乱されて出てきたエックス線がつくる回折像を検出器で捉える。回折像を解析すると、タンパク質の立体構造がわかる。
拡大図(55KB)
 
 
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[図2]
HARP膜内のアバランシェ増幅のしくみ。HARP膜に高電圧をかけると、急激に流れる電流が増えることから、なだれのような電荷の増幅が起こっていることがわかる。
拡大図(36KB)
 
 
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[図3]
エックス線HARP-FEA検出器の模式図。
拡大図(47KB)
 
 
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[図4]
プロジェクトの全体構想。
拡大図(68KB)
 
 
   ※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

  →JST先端計測のwebページ
  http://www.jst.go.jp/sentan.html
  →放射光研究施設のwebページ
  http://pfwww.kek.jp/indexj.html
  →構造生物学研究センターのwebページ
  http://pfweis.kek.jp/index_ja.html

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