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「魅力」あふれる素粒子? 2005.3.3 |
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〜 チャームクォークの物理 〜 |
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物質を構成する究極の粒子と考えられているクォークは現在までに6種類見つかっていますが、今回はその中のひとつ「チャームクォーク」についてお話ししましょう。「チャーム」というのは「魅力的な」という意味をもつ英語ですが、はたしてどんな魅力があるのでしょうか。 チャームの発見と前史 チャームクォークは6種類のクォーク(図1)のうち4番目に見つかったものですが、その発見はセンセーショナルなものでした。1974年にまったく違う2つの実験がJ/ψ(ジェイ・プサイ)と呼ばれる新しい中間子を同時に発見したのです。 J/ψ中間子は、サミュエル・ティンが率いる米国ブルックヘブン国立研究所の陽子加速器を用いた実験と、バートン・リヒター率いる米国スタンフォード線形加速器研究所の電子陽電子衝突型加速器を使った実験でほぼ同時に発見されました。 特にスタンフォード研究所での発見はけた違いに大量の衝突事象の発生を伴うもので(図2)、この発見は当時の世界の素粒子物理学界を興奮の渦に巻き込み、「11月革命」と呼ばれました。このJ/ψ中間子はチャームクォークと反チャームクォークから構成される中間子であると考えられ、それぞれの研究グループリーダーには2年後の1976年に早くもノーベル物理学賞が授与されました。 現在使用されているJ/ψ中間子の名前は、2つのグループが発見直後に独立に、それぞれJ粒子、ψ粒子という名前を付けてしまったことに由来しています。 チャームクォークにはその発見に至るまでに長い「前史」があります。1960年代以降、いくつかの理論的研究によってその存在は予想されていましたし、1970年代初めには宇宙線の観測や加速器実験で「予兆」が捕らえられていました。 名古屋大学の丹生潔(にうきよし)教授らは1971年に宇宙線の中に不思議な粒子を見つけ、チャームクォークを含んでいると考えましたが、事象の数が少なかったためにその存在を確立するには至りませんでした。しかし、その後のさまざま理論的研究を推進する動機づけになったといわれています。1974年のJ/ψの発見は「革命的」であったと同時に、満を持しての発見であったともいえるのです。 チャームと「強い力」の研究 その後の粒子加速器の進歩によって、現在ではチャームクォークはややありふれた存在となりましたが、研究は活発に続けられています。ひとつの理由は、4つの基本的な力のうちのひとつである「強い力」の研究に対してチャームクォークの質量がちょうどよいことにあります。 表1は6種類のクォークの質量です。表の右側にあるのはそれぞれのクォークがその反クォークとの対になってできる中間子のうちいちばん軽いものの質量です。単純に考えると中間子の質量は対応するクォークの質量の約2倍になるはずですが、ダウン、アップ、ストレンジの3つについては全然違う値になっています。これは、クォークと反クォークを結びつけている「強い力」が中間子の質量に数億電子ボルトの影響を与えるからです。このような状況で「強い力」の影響を理論的に計算することは簡単ではありません。 一方、ボトムとチャームはクォークの質量が大きいため、中間子の質量に占める強い力の影響は相対的に小さくなっています。そして、その影響は理論を使って比較的簡単に計算できると期待されます。チャームクォークを含んでいる中間子や重粒子の様々な性質を調べると、強い力の働き方をあいまいさの少ない形で研究することができます。 Belle実験の成果 電子陽電子衝突型加速器KEKBを用いて行われているBelle実験では、チャームクォークを含むハドロン粒子(中間子や重粒子)の発見が続いています。Belle実験ではチャームクォークを含む粒子が電子と陽電子の衝突から直接生み出される他に、B中間子の崩壊の途中でも生まれます(図3)。 表2はBelle実験で新たに見つかった新しいハドロンの一覧です。他の実験で見つかった粒子をBelle実験が詳しく測定して存在が確立したものも含めてあります。 ηc(2S)(エータ・シー)、X(3872)、X(3940)、Y(3940)は、いずれもチャームクォークと反チャームクォークから構成されるチャーモニウムと呼ばれる中間子の新しい種類のものと考えるのが自然です。また、"D"の文字を含む粒子は、チャームクォークを1つだけ含む中間子です。Σc(2800)は、チャームクォークとあと2つのクォークからなる重粒子で、電荷が異なる0、+1、+2の3種類が見つかりました。 新たに見つかったハドロンの性質は理論から予想されるものと合っているものもありますが、予想と適合しないものもあります。このうち、D中間子、Σc(2800)、X(3940)は理論の予想と合っていますが、X(3872)は崩壊の仕方の詳細な観測からチャーモニウムとは別のタイプの粒子であるらしいことがわかってきました。D中間子とD*中間子があたかも分子のように結合した新しいタイプの粒子ではないかと考えられています。 一方、Y(3940)の崩壊の仕方についてもチャーモニウムでは説明が難しく、チャームクォークと反チャームクォークにグルーオンが加わってできる「ハイブリッド粒子」である可能性がでてきました。これももし確認されればはじめて見つかった全く新しいタイプの粒子です。 図4に示したD中間子とDs中間子の質量についても理論の予想と観測結果が必ずしも良く合っているわけではありません。そういうわけで、さきほどは比較的簡単に理論計算ができると言いましたが、実際にはそう一筋縄ではいかないようです。しかし、このようなチャームを含む新しい粒子の発見によって、強い力の働き方の研究が大きく進展することが期待できます。J/ψ中間子の発見からすでに30年がたちましたが、チャームクォークの魅力はまったく衰えていません。
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