|
>ホーム >ニュース >News@KEK >この記事 | last update:06/02/09 |
||
研究所の歴史をつむぐ 2006.2.9 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||
〜 史料室の活動 〜 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||
個人であれ組織であれ、どんな活動も積み重なっていけば、それは歴史になります。後世のために過去の記録を保管しておくことはどのような組織でも珍しくはありませんが、民主主義を守るためにその組織の活動を誰もがチェックできるようにすることを目的に掲げる近代アーカイブズは、ナポレオン時代のフランスに端を発するといわれています。 公的な研究機関としての貴重な歴史的資料を収集保存するために開設されたKEK史料室についてご紹介しましょう。 アーカイブズとは 1997年に高エネルギー物理学研究所と東京大学原子核研究所(核研)及び東京大学中間子科学研究センターが統合して、現在の高エネルギー加速器研究機構が誕生しました。この時、田無市(現在の西東京市)の核研にあった大量の史料がKEKに持ち込まれました。2004年にKEKが法人化されると同時に、史料室が開設されました。 この史料室の主な仕事は、KEKそのものとそれがかかわる研究分野の歴史的な記録資料(史料という)を収集整理し保存と管理をおこなうことです。また、必要に応じてその史料を外部の人に公開したりその調査・閲覧を求める研究者の便宜をはかり同時にその史料によってKEKの歴史を調査をすることも重要な仕事です。このような業務をおこなう施設は「アーカイブズ」と呼ばれています(図1)。 長期保存に適した方法を検討し、伝統的なアーカイブズで一般的な仕方とIT技術によるデジタル化する方法を併用することにしました。また既存の史料では不充分な情報を補うためにかつて活躍した人にインタビューをしたりシンポジウムを企画して招待講演をお願いして史料の発掘につとめています。そして手に入った史料を利用してKEKの研究活動の広報普及に努め、科学史研究としてその調査を行う人の支援をします。 研究者と研究所の歴史 KEKよりも一足早く設立されたヨーロッパのCERN研究所では、設立当初からアーカイブズの重要性が認識され、建物の地下室に理事会の会議録や著名な研究者の書簡などの貴重な資料が厳重に保管されています。CERNアーカイブズにはノーベル物理学者パウリ博士がアインシュタインや当時の著名な物理学者たちと交わした書簡が保存されています(図2)。WWWを提唱したティム・バーナーズリー博士が1992年9月にKEKにウェブのリンクを張った時の手書きのメモも残されていました(図3)。 KEK史料室にも先にご紹介した朝永博士をはじめ、日本の素粒子原子核物理学の担い手となった科学者たちの貴重な史料や写真などが保存されています。会議の議事録などの公的な史料だけではなく、手書きのメモや設計図など、アーカイブズを訪れることで、その時代を生きた科学者達の活動の息吹に触れることができます。 オーラルヒストリー 紙などに記録された史料ではなく、ある時代に実際に働いていた人々にインタビューをして、一人一人の記憶からその時代に起きていた出来事をまとめなおす手法を「オーラルヒストリー」といいます。「オーラル」とは「口頭で」という意味ですから、「口頭で語り継がれる歴史」というところでしょうか。 これまでに加速器研究のパイオニアの北垣敏夫東北大名誉教授やKEKの設立などに深く関わってこられた西川哲治氏や菅原寛孝氏のような所長経験者などのオーラルヒストリーのインタビューを実施し、その分量は合計約50時間ほどになり、デジタルの音声ファイルまたはビデオ映像で保管されています。これらのインタビューを文字に書き写し、史料として検索できるようにする作業が進行中です。 オーラルヒストリーを系統的に行うプロジェクトは、高エネルギー研究者の社会を分析している文化人類学者シャロン・トラウィークさん(UCCL準教授)のすすめで始まりました。トラウィークさんはKEKとSLACの研究者の社会を博士論文の研究テーマとして選び、1970年代から何度も来日してKEKにも長期滞在しました。日米の研究者社会を比較した研究は「Beamtimes and Lifetimes」という著書にまとめられ、いまでは文化人類学の研究方法による「科学研究の実験室の参与観察研究」の草分けの研究のひとつとして評価を得ています。 ワークショップを開催 KEK史料室ではアーカイブズに関する国際的な共同研究を総合研究大学院大学(総研大)や核融合科学研究所と協力しながら進めており、2003年からKEK、総研大およびUCLAでアーカイブズに関するワークショップを数回にわたり開催してきました(図4)。また2005年1月にはKEKで総研大と共同で開催された「大学共同利用機関の成立」の研究会では約45人の参加があり、活発な議論が交わされました(図5、6)。 国内でも研究所の歴史や研究者の文化人類学などをオーラルヒストリーを取り入れながらアーカイブズの史料に基づいて研究しようという人もでてきました。史料室ではそれらの研究者が過去の史料にアクセスしやすくなるよう、データベースを整備しています。 まだ開室したばかりですので史料室としての機能が未成熟です。総研大では、大学共同利用機関の歴史をテーマとするプロジェクトを提案しそれを遂行のためにも各研究機関のアーカイブズ活動を支援することを掲げています。そのプロジェクトに加わることでKEK史料室を充実したものにし利用価値のあるものに出来るよう努力していますので応援して下さい。
|
|
|
copyright(c) 2004, HIGH ENERGY ACCELERATOR RESEARCH ORGANIZATION, KEK 〒305-0801 茨城県つくば市大穂1-1 |