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光の粒をはじく 2007.5.24 |
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〜 レーザー光によるコンプトン陽電子源 〜 |
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暗闇の中で懐中電灯の光にボールを投げつけると、ボールは一瞬光って、そのまま通り過ぎます。懐中電灯から発した光がボールに当たって、周りに散らばることで、そばにいる人にその光が見えるようになるのです。 では、散乱された光はどうなるでしょう。ボールを思いきり強く投げれば、ボールの勢い(エネルギー)は光に乗り移ります。つまり、高いエネルギーの光が発生することになります。 ボールの代わりに電子を光の速さ近くまで加速してからぶつけると、電子の勢いを効率よく光に伝えることができます。この原理を応用して、将来の実験で重要な鍵を握ることになる、「コンプトン陽電子源」という新しい装置の開発を行っている素粒子原子核研究所講師の大森恒彦さんらのグループの研究をご紹介しましょう。 右巻きと左巻きを分けたい 以前の記事でご紹介したように、素粒子が光の速度で動く時、その進行方向に対して右巻きの粒子と左巻きの粒子があります。自然界にある4種類の力のうち、弱い力は左巻きの粒子だけに働くことがわかっています。力の働きを詳しく調べるには、右巻きなら右巻きだけ、左巻きなら左巻きだけ、粒子を別々に作り出して実験することが必要になります。 厄介なことに、電子も陽電子も、普通の作り方では右巻きと左巻きを効率的に選り分けるのはとても難しいのです。そこで、ガンマ線という、とてもエネルギーの高い光を物質に当てた時に出てくる電子や陽電子に着目します。このとき、もとのガンマ線が「円偏光」と呼ばれる性質を持っていれば、電子や陽電子もそれに応じて右巻きや左巻きの性質を持って生まれることが知られています。 「円偏光」というのも、光の粒子が持つ右巻きと左巻きの性質です。では、円偏光のガンマ線を作るにはどうすればよいでしょうか。 いくつかの有力な方法がありますが、そのひとつが今回ご紹介するコンプトン陽電子源です。 光に電子をぶつける 電子に光が当たると、電子がはじきとばされるという現象は「コンプトン散乱」と呼ばれます。電子も光子も身近にある素粒子なので、その現象は、色々な分野で利用されています。 コンプトン散乱を利用して陽電子源を作成するには、電子ビームとレーザー光を衝突させて高いエネルギーの光であるガンマ線を作り(図1)、そのガンマ線を金属標的にあてて、対生成により陽電子を作ります(図2)。この時、円偏光の性質を持つレーザー光を使うと、弾き飛ばされたガンマ線も円偏光の性質を持ち、対生成される陽電子もガンマ線の円偏光の向きに応じて右巻きか左巻きになります。 この方式で必要となる電子ビームのエネルギーは、アンジュレータ方式などの他の方法と比べると比較的低くてもすむことから、柔軟な実験が可能になることが期待されています。特に、レーザー光の円偏光の向きを簡単に切り替えられるので、右巻きと左巻きの陽電子が実験でどのように異なる振る舞いをするのかを精密に調べるには最適です。 さらに大強度をめざして KEKのコンプトン陽電子源の開発は、2005年に実際に陽電子を作ってその偏極度を確かめるという原理実証実験に成功しました。現在は将来のリニアコライダーなどの実験のために大強度の陽電子源として実用化する事を念頭に置いた技術開発を進めています。そのためにレーザー光を「光蓄積空洞」に溜めて、その強度を数千倍から数万倍に増倍し、その増大したレーザーパルスを電子ビームと衝突させる設計が進められています。 コンプトン陽電子源の開発は非常に多くの国の研究機関が参加する国際共同作業で進んでいます。そのなかで光蓄積空洞の開発は主として仏オルセー線形加速器研究所(LAL)、中国科学院高能物理研究所(IHEP)、広島大学、早稲田大学、そして高エネルギー加速器研究機構(KEK)が協力して行っています。この光蓄積空洞の試作品を制作し、KEKの先端加速器試験装置(ATF)の電子リングに組込んでガンマ線発生実験を行う計画が進んでいます。 計画は2段階になっていて、第一段階は、増倍率が1千程度の蓄積空洞を広島大学、中国IHEP、早稲田大学、KEKの共同で開発しています。今年夏にはATFに組み込んだ試験を行います。このために広島大学や早稲田大学から研究者や大学院生たちがKEKにきて実験準備に取り組んでいます。最近は中国からの研究者も準備に加わりました。 第二段階では、フランスで開発が進められている増倍率2万倍を超える蓄積空洞をATFに組込む予定です。 国際共同で開発が進む次世代の実験技術の今後にご注目ください。
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