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last update:08/09/18  

   image 目印タンパク質を見分ける    2008.9.18
 
        〜 脱ユビキチン酵素とポリユビキチン 〜
 
 
  ユビキチンという小さなタンパク質は、合成に失敗した不良品のタンパク質や、不要になったタンパク質の「目印」として働くことで有名で、この発見には2004年にノーベル化学賞が贈られています。ユビキチンの目印のついたタンパク質は分解され、タンパク質の原料であるアミノ酸やペプチドに戻してリサイクルされます。ユビキチンは、この他にもさまざまな生命現象で重要な働きをしていることが次々にわかり、注目を集めています。

目印の使い分け

タンパク質分解の「目印」として有名なユビキチンですが、他にもさまざまな生命活動でも重要な目印となっていること、そしてユビキチン同士のつながり方の違いにより、いろいろな種類の目印として使い分けていることは、以前のニュースでお話ししました。ユビキチンの目印は、1分子だけが付いている場合もあれば、複数個のユビキチンが鎖のように連なっている場合(ポリユビキチン鎖)もあります。そして、そのつながり方の違いによって、さまざまな種類の目印として使い分けられていることがわかってきました。

たとえば、分解してリサイクルに回すタンパク質に付けられる目印は、ユビキチンの48番目のアミノ酸のリジンのところで他のユビキチンとつながったポリユビキチン鎖です(図1左)。これとは別なつながり方をしたポリユビキチン鎖に、63番目のリジンのところでつながった形があります(図1右)。これは48番目のものとは違う役割の目印として働きます。今までにわかっているものだけでも、DNAの修復、タンパク質合成、免疫や炎症に関わる細胞内シグナル伝達、受容体の分解など、細胞内の重要な反応に関わっています。

ユビキチンを切り離す酵素

つながり方の違うポリユビキチンが違う種類の目印であることはわかっていましたが、目印の違いを見分ける仕組み、つまり細胞の中のタンパク質が特定のつながり方のポリユビキチンを見分ける現場を捉えることに成功した研究は、これまでにありませんでした。東京大学放射光連携研究機構生命科学部門の深井周也(ふかい・しゅうや)准教授のグループは、ポリユビキチンを見分けることのできるタンパク質のひとつ、AMSHと呼ばれるタンパク質に注目しました。

AMSHは、脱ユビキチン酵素のひとつで、目印ユビキチンを切り離す働きを持っています。AMSHは、受容体と呼ばれる細胞の表面での情報交換を担うタンパク質のリサイクルに関わっています(図2)。AMSHは、ポリユビキチンの目印のついた受容体を見つけ、受容体から目印を切り離すのですが、63番目のリジンでつながった形のポリユビキチン鎖だけを見分けていることがわかっていました。

AMSHが63番目のリジンでつながったポリユビキチン鎖だけを切り離すことができるのは、連結部分をうまく見分けているからだと考え、一番簡単な形のつながったユビキチン、つまり2分子のユビキチンがつながった二量体を合成することにしました。これを作るためにはユビキチンをつなげる酵素を使いましたが、ユビキチンの鎖が際限なく長くならないように、1回だけつながるようにアミノ酸配列を1カ所だけ変えた変異体を使うなどの工夫をしました。そうしてできあがったユビキチン二量体とAMSHの複合体の結晶を作り、KEKフォトンファクトリーのPF-AR NW12Aで、立体構造を解き明かすことに成功しました(図3)。

AMSHには、少しだけ構造や機能の違ったよく似た兄弟タンパク質がいくつかありますが(今回調べたのはそのうちのひとつのAMSH-LPという名前がついています)、すべてのAMSHに共通する特徴的な構造(図のIns-1とIns-2)が、ちょうどユビキチン二量体と結合している部分に入り込んでいました。そして、このIns-1とIns-2がそれぞれのユビキチンをしっかり固定した結果、AMSHがユビキチン鎖を切り離すのに重要な役割を果たす亜鉛イオンの部分が、まるでパズルをはめ込んだようにちょうどつながりの部分に位置していたのです。

ウイルスやがんの増殖を抑える薬の可能性

この研究は、特定のポリユビキチン鎖を見分けて、それを切断する仕組みを世界で初めて捉えたものです。ユビキチンで目印を付けたり、外したりする仕組みは、細胞が増殖するためには必要なさまざまな現象に関わるため、抗がん剤のような細胞の増殖を抑える薬剤を設計するためのターゲットとしても注目されています。この研究で調べたAMSHが働く受容体のリサイクル経路は、HIVやエボラウイルスが感染した細胞の中から細胞の外へ移動し、別の細胞に感染する際にも使われることが知られています。これらのウイルスの感染を防ぐ薬剤を設計するためには、今回調べた立体構造はとても重要な情報になるでしょう。

この研究成果は、英国の科学誌ネイチャー (Nature) 2008年9月18日号(オンライン版は8月31に公開)に掲載されました。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→東京大学放射光連携研究機構生命科学部門のwebページ
  http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/srro/
            SRROLifeSciDivJp2/Welcome.html

→放射光科学研究施設(フォトンファクトリー)のwebページ
  http://pfwww.kek.jp/indexj.html
→構造生物学研究センターのwebページ
  http://pfweis.kek.jp/index_ja.html

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[図1]
形状の異なるポリユビキチン鎖。ポリユビキチン鎖は、ユビキチン分子のC末端のグリシン残基と、隣のユビキチン分子のリジン残基が結合することによって鎖状につながるが、ユビキチン分子には7つのリジン残基があるため、どのリジン残基を介して結合するかによって形や機能が異なる。
拡大図(41KB)
 
 
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[図2]
AMSHの役割。EGF (Epidermal Growth Factor, 上皮成長因子) と呼ばれるタンパク質は、細胞の表面にあるEGF受容体と結合し、細胞の増殖の調節をする。EGFが結合したEGF受容体は、目印としてLys63型のポリユビキチンが付加され、細胞内のエンドソームというリサイクルシステムに関わる小胞に輸送される。AMSHは、エンドソームの膜上で、ポリユビキチン鎖を除去することによって、EGF受容体を細胞表面へとリサイクルする経路に関わっている。
拡大図(30KB)
 
 
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[図3]
AMSH-LPとLys結合型ユビキチン二量体との複合体の結晶構造。ユビキチン切断活性に必要な亜鉛イオンを含むJAMMコアと呼ばれる構造に、AMSHファミリーに特徴的な2カ所の領域(Ins-1およびIns-2)が挿入されていた。JAMMコアによって形成された溝に二量体の結合部分が入り込んでいる(拡大図)。切断を受けるGly76とLys63の結合部分は、亜鉛イオンのちょうど真上に位置している。
拡大図(61KB)
 
 
 
 
 

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