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last update:09/07/16  

   image 見えない物質を探す    2009.7.16
 
        〜 神岡の地底でダークマター探索 〜
 
 
  宇宙には、星や銀河系が発する光から考えられるよりもはるかに多くの物質が存在することが、渦巻き銀河の回転速度などの観測からわかっています。その正体はいまだによくわかりませんが、光や電波などでは観測できない物質であることから「ダークマター(暗黒物質)」と呼ばれています。

このダークマターが、まだ見つかっていない未知の素粒子である可能性についての研究が進められています。

スーパーカミオカンデと同じ神岡鉱山の地下1,000メートルに東京大学宇宙線研究所が建設中のエックスマス(XMASS)という検出器について、同研究所神岡宇宙素粒子研究施設の広報担当、武長祐美子特任研究員に解説していただきました。

通常の物質の5〜6倍もある「見えない物質」

ダークマターは電荷をもたず、非常に重く(陽子の質量の約100倍)、安定していると考えられています。このような性質をもつ粒子は、素粒子の標準理論では説明することができません。従って、ダークマターは、標準理論を超えた新しい理論の枠組みで説明される、未発見の粒子と考えられています。言い換えれば、ダークマターの候補となる粒子を発見することができれば、素粒子物理学に飛躍的な進歩がもたらさせる可能性があります。

ダークマターが存在することは、様々な天体観測から状況証拠として確認されてきました。渦巻き銀河の回転速度は、星などの明るく光る物質が多い中心部に比べて、明るい物質の少ない周辺部分では、遠心力と重力の釣り合いから考えると、速度が遅いと考えられます。しかし、実際に測定してみると、中心から離れても速度は変わらなかったのです。

ダークマターは宇宙初期に作られたと考えられます。その際、わずかな密度の揺らぎが核となって、ダークマターが重力により集められます。その周りにチリやガスも引き寄せられ、やがて星や銀河が形成されていったとするコンピュータモデルにより、銀河や銀河団が網目のような複雑な構造をしている現在の宇宙で見られる姿をうまく説明できることがわかってきました。ダークマターの正体を突き止めることは、素粒子物理の側面からも、宇宙物理の側面からも、重要な手掛かりとなっているのです。

最近のNASAの観測衛星WMAPなどの観測によると、ダークマターはこれまで私たちが観測してきた星や銀河、あるいは電子や陽子などの物質の5〜6倍は存在すると考えられています。

国際的な発見競争

ダークマター探索実験は激しい国際競争の最中にあります。イタリアでは1998年にDAMA実験が開始され、さらに大型化したLIBRA検出器によってダークマターの発見を示唆する結果を発表したことがありました。しかしその後、アメリカのCDMS実験、アメリカのXENON10実験などによって否定されていて、現在でも未解決のままです。

現在最も良い検出感度を誇る検出器を持つのは、15キログラムのキセノンの液相と気相の二相構造を持つXENON10というグループと、ゲルマニウムを検出器に用いたCDMSグループです。これらのグループを含め、世界各地でさらに検出感度を上げ、精密化されたダークマター直接探索実験を始めようとしています。

一方、加速器実験でダークマターを探す試みも続けられています。2008年から始まったLHC実験では、陽子どうしを非常に高いエネルギーで衝突させることによって生成される粒子の中にダークマターの候補となる未知の粒子を探します。

従来の100倍の感度を目指す

ダークマターの粒子は普通の物質とはごく稀にしか反応しないと考えられています。言い換えれば、たくさんの物質を集めて、そこで見慣れない現象が起きるのを時間をかけて探せば、ダークマターを見つけられる可能性があります。しかし、ダークマターが起こす反応は非常にかすかなので、なるべく他の粒子の反応がない静かな環境が必要になります。

岐阜県飛騨市神岡の地下1000mは、宇宙から降ってくるミュー粒子などの宇宙線の影響を避けるのに最適な場所です。ここに建設中の XMASS実験では、約1トンの液体キセノンを用いてダークマターの直接探索を行います。XMASSとは、Xenon detector for Weakly Interacting MASSive Particles(ダークマター探索のためのキセノン検出器)の略称です。

XMASS検出器は、約1トンの液体キセノンの周囲に642本の光電子増倍管を配置した直径約80cmの検出器と、外から入ってくるガンマ線や中性子、宇宙線などを遮断する、高さ10m、直径10mの水タンクから構成されています(図1)。

ダークマターがキセノンの原子核と衝突し、エネルギーを落とした際に放出されるシンチレーション光を液体キセノンを取り囲んだ光電子増倍管でとらえます。液体キセノンを用いる利点としては、(1)発光量の多い蛍光物質であること、(2)密度が高く、小さい検出器でもダークマターとの衝突回数が増えること、(3)原子番号が大きく、外から来るガンマ線を止める“自己遮蔽”力が強いこと、(4)シンチレーション光を効率よく光電子増倍管でとらえることができること、(5)蒸留による純化が容易であること、(6)比較的高い温度(-100℃)で液化すること、などが挙げられます。

邪魔な反応との戦い

ダークマターがキセノンとの衝突で発生させるエネルギーは非常に小さく、スーパーカミオカンデで検出できるエネルギーのさらに1000分の1程度しかありません。また、この反応は非常に稀で、XMASS検出器では10日に1回かそれより低い頻度でしか観測されないと考えられます。そのため、岩などの外部からの環境放射線を排除し、光電子増倍管、水シールド、キセノン、検出器の構造体などすべての部分から放射性不純物を減らす必要があります。

光電子増倍管の各部品や基板に用いられる放射性物質の量を計測し、より放射性物質の少ない材料を選定し、浜松ホトニクス株式会社と共同で試作を重ねた結果、従来のものに比べて放射性物質であるウランやトリウムの量を100分の1以下に抑えた極低放射能光電子増倍管の開発に成功しました。この光電子増倍管は、受光面を6角形にすることで従来の円形のものに比べて液体キセノン表面を効率よく覆って光を感知できる設計になっています(図2)。このことはつまり、より低いエネルギーのダークマターまで観測できるということになります。

また、キセノン中に存在する放射性物質を含むクリプトンは、キセノンとの沸点の違いを利用して、蒸留により10万分の1程度にまで取り除かれます(図3)。

このように邪魔になる余計な反応を徹底して排除することによって、XMASS実験は既存実験の100倍の検出感度を達成することを目指しています(図4)。

ダークマターの候補となっている候補の一つは、超対称性理論で予言されるニュートラリーノという粒子です。ダークマターを発見し、研究することは、新しい自然法則を手に入れることにもつながるのです。

XMASS実験では現在、水タンクの建設が終了し(図5)、液体キセノン検出器の設計、建設を行っていて、2009年秋には完成する予定です。神岡の地下からまた一つ新しい物理が見つかるかもしれません。今後の研究の進展にご注目ください。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→XMASS実験のwebページ
  http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/xmass/
→東京大学宇宙線研究所付属神岡宇宙素粒子研究施設のwebページ
  http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/

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    陽子の崩壊を探し求めて 〜カミオカンデの建設とKEK〜

 
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提供: 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設
[図1]
XMASS検出器のイメージ図。-100℃の液体キセノンの周りを642本の光電子増倍管が取り囲んだ60面体構造をしている。液体キセノンは常に冷却しておく必要があるため、二層の真空容器に入れて周囲と断熱する。外部からのバックグランドを避けるため、直径10m、高さ10mの水タンクの中央に液体キセノン検出器が設置される。
拡大図(47KB)
 
 
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提供: 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設
[図2]
XMASS実験用に開発された、六角受光面を持つ極低放射能光電子増倍管。光電子増倍管は、右図のような60面体の構造物上に配置される。
拡大図(31KB)
 
 
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提供: 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設
[図3]
高さ4mのキセノンの蒸留装置。キセノンにわずかに混入している放射性物質を含むクリプトンをキセノンとの沸点の違いなどを利用して取り除く。
拡大図(50KB)
 
 
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提供: 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設
[図4]
ダークマター検出の感度。横軸はダークマターの質量で、縦軸はダークマターと原子核との反応断面積。青と緑の線は既存実験による検出感度。水色の領域は、ダークマターの存在が予測されている部分で、赤い×印は特に可能性が高いとされる点。赤線のXMASS実験は既存の実験の100倍の感度が見込まれ、発見の可能性が高いと考えられる。
 
 
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提供: 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設
[図5]
建設中のXMASS実験装置。真中にあるタンクは高さ10m, 直径10mのシールド用水タンク。この中心部に液体キセノン検出器が置かれる。
拡大図(33KB)
 
 
 
 
 

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