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last update:09/11/26  

   image 見えない「ちり」を捉えた!    2009.11.26
 
        〜 ダストトラッピングの撮影に初めて成功 〜
 
 
  ゲームや映画に出てくるどんな強敵モンスターにも何かしら弱点があるように、加速器の中を走るビームにも実は弱点があります。高いエネルギーを持つ電子ビームがとても小さなちり(ダスト)のせいで急激に失われてしまう、そんな奇妙な現象の謎に挑んできた研究で、このほど解明の糸口となる成果が得られました。

その現象は、あるとき突然現れては消えていく予測不能なものなので、頻繁に観測され始めた1980年頃は、研究者の間でもまるで「ゴースト」の仕業のようだと言われるほどでした。その後の調査によって、その犯人は加速器内のミクロのダストであると考えられるようになりました。真空容器内に発生したダストが正電荷を帯び、それが負電荷のビームにまつわりつく「ダストトラッピング」によって、それまで安定だったビームが突然かく乱されるという説が提唱されたのです。電子や反陽子などの負電荷のビームにしか発生しないことと、その現象が起こると電子ビームが原子に衝突したときに出るガンマ線(X線よりも高いエネルギーの電磁波)が多く観測されるという事実によって、この説は広く支持されてきました。

電子貯蔵リングでのビーム寿命急落現象

この現象は、KEKの放射光科学研究施設にある2つの電子加速器PF-ring(Photon Factory storage ring)とPF-AR(Photon Factory Advanced Ring)でも、運転が始まった1980年代から発生していました。電子ビームを貯蔵するリング型加速器の場合、ダストトラッピングは突然ビームの寿命が短くなる「ビーム寿命急落現象」として観測されます。

真空パイプ中をほぼ光速で進む電子ビームは残留気体との衝突を繰り返して少しずつ失われていきます。例えばPF-ringのビーム寿命は約40時間、PF-ARでは約20時間で、その時間運転を続けると電子の数が半分に減ります。ところがダストトラッピングが起きるとビーム寿命が何分の一にも短くなり、あっという間に電子ビームが失われてしまいます(図1)。

ビーム寿命急落現象の解明に向けた研究

KEK加速器研究施設の谷本育律研究機関講師、本田融准教授、坂中章悟准教授による研究チームは、まず、加速器の運転中にダストが真空パイプ内の放電によって発生する場合がある点に着目しました。放電は高電圧がかかっている真空ポンプ(スパッタイオンポンプ)の中や真空パイプ中の突起で起こります。そこで、研究チームは放電を意図的に起こすことができる装置(図2)を周長377mのPF-ARに組み込んで、ダストトラッピングを再現させる実験を行いました。実験装置内での放電の様子をとらえるために、ビデオカメラで撮影しました。この装置を用いた実験の結果、予想通り放電によってダストトラッピングを再現することができました。図3は放電の様子の一例、図4はビーム寿命急落現象が再現されたときの実験データの一例です。

電子ビームにトラップされたダストの映像

また、ある実験では電極を動かし始めた瞬間、ビーム寿命急落現象が発生しました。このときのダストは想定していた放電ではなく、電極の擦れによって発生したと考えられます。驚いたことに、この実験では寿命急落現象に同期して、2台のビデオカメラの前を何度も流れ星のように移動する発光体が観測されたのです(図5)。これが世界で初めて撮影に成功した電子ビームにトラップされたダストの映像です。

この映像にはダストが電子ビームの軌道に沿ってすばやく左右に動く様子が映し出されています。そして、ミクロのダストは1000℃位の温度で明るく光っていると考えられます。これは、他の研究者によって提唱されていた、ビームとの相互作用でダストが非常に高温になりうるという説を裏付けるものでもあります。

この一連の実験は、放電によってダストが作りだされて電子ビームにトラップされることを確かめただけでなく、ある条件ではトラップされたダストがカメラに映し出せることを示しました。もちろんこの実験だけでダストトラッピングがすべて解明された訳ではありませんが、トラッピングメカニズムの解明に向けてダストが発する光を観測することが有効な実験手段なることが示されました。たとえば、ダストをハイスピードカメラで観察することができればもっと詳しいデータが得られ、現象の解明にぐっと近づくことでしょう。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→Physical Review Special Topics -
            Accelerators and Beamsのwebページ(英語)
  http://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevSTAB.12.110702
→Physical Review Focusでの本研究紹介記事(英語)
  http://focus.aps.org/story/v24/st16
→KEK放射光科学研究施設(フォトンファクトリー)のwebページ
  http://pfwww.kek.jp/indexj.html

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[図1]
PF-ARでのビーム寿命急落現象の発生例。
拡大図(24KB)
 
 
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[図2]
放電発生装置の内部写真。電子ビームはパイプの中央を手前から奥に向かって進む。電極Aは外部から高電圧をかけて放電させ、電極Bはビームからの高電磁場を利用して放電させる。それぞれの放電の様子を外からビデオカメラで監視する。
拡大図(99KB)
 
 
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[図3]
電極Aに-5kVをかけて意図的に発生させた放電の一例。この直後にビーム寿命急落現象が発生した。
拡大図(74KB)][ムービー(77KB)
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[図4]
意図的な放電によってビーム寿命急落現象が再現された例。ダストの存在を示すガンマ線量の増加も観測された。
拡大図(29KB)
 
 
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[図5]
電子ビームにトラップされたダストの映像。何度もカメラの前を横切る流れ星状の発光体として観測された。電子ビームは画面中央を右から左へ横切っているがカメラでは見えない。
拡大図(34KB)][ムービー(324KB)
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