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ビッグバンの「前」を探る 2009.10.29 |
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〜 チリ・アタカマ高地のQUIET実験 〜 |
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宇宙はビッグバンと呼ばれる熱い火の玉の様な状態で始まり、それが膨張して現在の宇宙になったと考えられています。ではその熱い火の玉はどのようにしてできたのでしょうか? その最も有力な説がこのニュースでも何度も取り上げているインフレーション理論です。 インフレーション理論によれば、ビッグバン以前に宇宙が急激に膨張した時代があり、その時に蓄えられたエネルギーによってビッグバンが引き起こされたと考えられます(図1)。この宇宙の急激膨張の痕跡を見つけるには、以前の記事でも紹介した宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の偏光を精密に測るのがベストだと考えられいて、現在世界中でその発見を目指した観測が計画・実行されています。KEKは一昨年前から国際共同実験QUIET実験に参加してCMB偏光の精密測定を行っています。今回はこのQUIET実験について初年度の観測状況なども交えてご紹介します。 QUIET実験 QUIET実験(Q/U Imaging ExperimenT)は、アメリカ、日本、ドイツ、イギリス、ノルウェーから約40名の研究者が参加する国際共同実験です(図2)。CMB実験というとCOBE衛星やWMAP衛星と言った衛星実験を思い浮かべられる方も多いと思いますが、QUIETは南米チリのアタカマ高地で行っている地上実験です。日本からはKEKの研究者が実験に参加し、これまで延べ200日間現地に滞在して観測を行ってきました。観測サイトの様子についても後程詳しく紹介したいと思います。 図3はQUIET望遠鏡の写真です。周囲からのミリ波を遮断するためにグランドスクリーンという白い箱で中が隠れているため一見するととても望遠鏡には見えませんが、その中には図4の様に反射型の望遠鏡がきちんと納められています。空から降り注ぐCMBの光は、この鏡で反射して焦点面に設置された偏光を測定する測定器(偏光計)に叩き込まれます(図5)。その後偏光計に入った光は一度2つに分けられ、片方の位相だけをずらした後にまた合成して偏光の情報が取り出されます。これは波の干渉の性質を利用した測定方法です。詳細に興味のある方は以前の宇宙背景放射に関する記事や参考文献をご覧下さい。 地上5000mでの実験環境 QUIET実験は標高5000mの山の上で観測を行っています。またこの辺りは世界でも有数の砂漠地帯です。当然観測サイトには水がありませんので、必要な水は全て最寄りの町で調達して持参します。また観測機器を動かす電気も自家発電により賄います。さらに酸素濃度が地上の約半分になりますので高山病の危険も考えなくてはなりません。外で作業をする場合は酸素ボンベが必須ですが、それでも体調が悪くなった時は作業の途中でも速やかに下山するなどして対処しています。 このように過酷な生活環境ではありますが周辺の景色は絶景です。空は抜ける様な青空で、周辺の山々も特に夕日を浴びた時の山肌の色合いなどは絶妙です。夜は夜で満点の星が空一面に展開し、時には迫ってくる様な迫力すら感じる時があります。またサイトへ行く途中には、ビクーニャなどの野生の動物が生息している場所があり(図6)、何日居ても飽きる事がありません。 QUIET初年度の観測 昨年の10月から今年の6月にかけて40GHz帯域での観測を行い、延べ3000時間を越えるCMB偏光のデータを収集しました。これは現時点では世界最高感度となるデータ量で現在データを鋭意解析中です。また7月からはレシーバを入れ替えて90GHz帯の観測を開始しています。 QUIETではCMBのデータ以外にレシーバの特性などを調べる為に、偏光特性の分かった天体や銀河等も観測します。図7は、偏光している銀河を見た時のイメージ図でWMAP実験と比較した物です。この図からQUIET実験がWMAPを感度の面ではるかに越えている(図が鮮明)事がお分かり頂けるかと思います。この高感度なデータを用いたインフレーションの検証に関する最初の結果についてはまたNews@KEKでご紹介します。 新学術領域「背景放射で拓く 宇宙創成の物理」でさらに推進 今年度から、KEK素粒子原子核研究所をホスト機関として、新学術領域「背景放射で拓く宇宙創成の物理(領域代表羽澄昌史)」という新しいプロジェクトが立ち上がりました。これは国内の素粒子、宇宙、天文、超伝導デバイスの研究者が連携して宇宙創成の謎に挑む物で、今回紹介したQUIETはじめPolerBeaR実験(QUIETとは異なる周波数帯域)や宇宙最古の天体の形成過程を明らかにするための赤外線の観測実験などを推進していきます。 先日10月7日には領域の立ち上げシンポジウムが東京ステーションコンファレンスで行われ(図8)、60人を越える関係者が一同に会しました。CMB観測に関して日本はまだまだ世界に立ち後れている状況ですが、プロジェクトのメンバーは世界の最先端に上り詰める事を目指しています。
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