機構長年頭挨拶

 

KEK機構長 鈴木厚人

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新年明けまして、おめでとうございます。年頭にあたり、一言、挨拶申し上げます。

昨年は東日本大震災によりKEKも多くの損害を被りました。被災1ヶ月後に復旧スケジュールを作成したところ、海外からは、そのスケジュールの実現は難しいのではとの指摘を受けました。しかし、皆様の多大な尽力により予定よりも早く復旧を進めることができ、その結果、多くの海外の研究者は驚きとともに、絶大なる賞賛の意を送ってきました。そして、KEKはより一層の信頼を得ることができました。これは一重に、復旧にむけた政府関係機関の理解、支援と同時に、職員の皆様の努力の賜物であると感謝致します。

また、KEKは震災に対し諸々の努力を続けてきました。福島第一原子力発電所の事故に際しては、事故直後からKEKにおける放射線量測定のリアルタイム情報をウエッブ上で公開し、国立環境研究所と共同で、空気中の放射性物質の種類と濃度の測定結果も公表してきました。こうした情報は、特に関東地域では広く多方面の方々に活用いただけました。放射線量の測定はKEK内にとどまらず、文部科学省と連携して福島や他の県にも職員の派遣を行い、水質や、土壌、野菜、魚などの放射線量の測定の実施や、測定法を教授しました。さらに、つくば市の要請と支援を受け、避難住民への放射線量測定、市民向けの放射線への対応や講演、市の放射線量測定、対策に力を注いできました。また、飯舘村再興プロジェクトへの支援活動を、市民グループ、東京大、東北大と連携して行っています。

今回の原子力発電所事故対応に関して、私はルース・ベネディクトの「菊と刀」で指摘されている、日本と西欧での「罰」と「罪」の違いを思い起しました。原発事故に対する罰は、「原子力村」と称される責任母体に概して鷹揚なもので、これまでの政策・施策に関与した責任のある方々の対処に疑義の念を持ちました。同時に、それを許している日本全体が「日本村」を形成しているのではないかと思われます。日本は、村社会の良さを維持しながらも、それぞれの個人が確固たる基準、すなわち「罪」の意識を持ち、その責任を十分に自覚して行動する社会でなければならないと考えます。そして、KEKは率先してそのようにあるべきです。

KEKは新たな研究段階へ踏み出そうとしています。東海キャンパスのJ-PARCでは、T2K実験でのニュートリノ振動現象の研究や、大強度陽子ビームの利を生かした数々の研究成果が生まれてくるでしょう。一段とビーム強度の向上が待望されます。多くの日本の大学研究者と一緒に推進してきた、スイス・ジュネーブの欧州原子核合同研究機関CERNにおける大型ハドロンコライダー(LHC)実験からは、ヒッグス粒子や新素粒子の発見が大いに期待されます。放射光施設は新たな研究領域の開拓を目指して、ERL(エネルギー回収型ライナック)を光源にするプロジェクトの準備を本格的に始動させました。さらに、国際リニアコライダー(ILC)に代表される先端加速器開発も順調に進んでいます。

大学共同利用機関として、さらなる他研究・教育機関や産業界との連携はもとより、人間文化研究機構、自然科学研究機構、情報・システム研究機構との4機構連携の推進や、教育を含めた社会への貢献の増進などを進め、KEKの存在の可能性を拡げていく所存です。そのためにも、機構長として勤める最後の3年間は、これまで国内外の活動に重点を置いたKEKの施策から、KEK内の運営・組織構造の改善に力を注ぎます。

龍は、暦の上の想像上の生き物ですが、私どもも龍のように力強くあり続ける一方、竜頭蛇尾とはならぬよう戒しめていかなければなりません。また、活力あるのみならず、十分に懸命であり、思慮深くあることも必要です。「長所は短所なり」と言われますが、長所を脇に置き、短所に目を向けたことから新たな発展が芽生えます。

ことし一年が意義ある年とするために、皆様と一緒に邁進いたしましょう。

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